外伝EP08 魔族に転生したんだけど、とりあえず仕事を探してみます。26
うーむ、マシュルカの森の中に潜む追い剥ぎ共のアジトとして再利用されている廃ホテル内には、神出鬼没の人狼がいるようだ。
もしかしてダハーカ教授が変身したモノなんじゃないのでは――と、疑ってはみたが教え子であるメリッサは否定していたしなぁ……。
ま、それはともかく、人狼が追い剥ぎ共のアジト二階の盗品庫内に出没したことについて訊いてみなくちゃいけないな。
そんな人狼に襲われて無事だったノッポのハンターに――。
「狼男――人狼がいたようだな、オッサン。」
「オッサンだと! 俺はまだ三十路前だから、お兄さんだ……って、お前、魔族か!」
「ビンゴ! そらはともかく、盗品倉庫内にいた現れた人狼について語ってもらうぞ。」
「素直に語らないとエナドレしちゃうわよ!」
「ヒ、ヒイイィ! 魔族が……魔族がもうひとりいるゥゥゥ~~~!」
むう、ノッポのハンターは、いきなり悲鳴をあげる。
おいおい、俺とポノス――魔族って、そんなに警戒すべき存在なワケ?
ちょっとだけ……ほのちょっとだけイラッとしたぞ!
「魔族には悪い伝説やら逸話がたくさん残っているからな。警戒されても仕方がないさ。」
「え、そうなの? なんつーか腑に落ちねぇな!」
魔族とは嫌われモノの種族かもしれないぁ……腑に落ちねぇ!
「どうでもいいけど、人狼について語れよ、オラッ!」
「ヒ、ヒイイッ! 話します、話しますから殺さないでェェェ~~~!」
むう、誰が殺すかよ……って、まるで目の前に鉈を持った某ホラー映画の主役である不死身の殺人鬼がいるかのような恐慌に陥ったような表情で凝視されると、俺としては複雑な気分になるぜ、まったく!
「人狼を見たのは一瞬なんだ! 相棒のチビウスが、そこにある鎖が何重にも巻いてある箱の手に取ろうとした瞬間、人狼が飛び出してきて……。」
「ふむ、目撃したのは一瞬なのかよ……。」
「じゃあ、どこへ行ったのかもわからないと?」
「お、おう……だ、だが、奥へ行った可能性もあるぞ。黒い影が、この部屋の奥へ向かう姿を見たんだ……気のせいかもしれないが……。」
「奥ねぇ……。」
ノッポのハンターことノッポウスは、人狼を見かけたとはいえ、一瞬、目撃した程度のようだ。
だが、盗品倉庫の奥へ行った可能性を示唆する。
「なんだかんだと、この部屋は広いな。」
「とはいえ、粗大ゴミだらけだけどね。」
「ん、鎖で封印された箪笥なんもあるぞ。妙な部屋だな。まるで複数の〝何か〟を封印しているかのようだ。」
「そういえば、ダハーカ教授は奥へ行ったんだろう? 何か〝いた〟?」
「いや、檻の中に捕らわれた洞窟ペンギンがいるくらいだったが――。」
「とりあえず、行ってみようぜ。」
「人狼がいるかどうかも確認しなくちゃね、ダーリン。」
なんだかんだと、盗品倉庫の奥へ行ってみよう。
人狼が潜んでいるかもしれないので慎重に、そして勇気を振り絞って――。
「俺も連れて行け! お前らと一緒だと狼男に遭遇しても大丈夫そうな気がするんだ。」
「あ、俺も俺も!」
「うおー! チビウス、大丈夫なのかー!」
「ああ、タフなだけが取り柄だからな!」
「つーか、凄い出血量……。」
「ハハハ、気にするな……う、ううッ!」
「ほーら、無理しちゃってぇ!」
さて、ノッポウスがついて来る。
ついでに、全身血まみれで痛々しい状態ながらも元気そうなチビのハンターことチビウスも――ほ、本当に大丈夫なのかぁ、コイツ?
「あ、檻がありますよ!」
「うお、窓から射し込む太陽の光を浴びてキラキラと身体が光るペンギンがいるっす!」
「アレが洞窟ペンギンってモノか――ッ!」
「ちなみに、洞窟ペンギンの被毛は、一本一本が宝石らしい。」
「なるほどね。それで全身が輝いて見えるってワケだ。」
さて、盗品倉庫の奥には、小動物用の檻があり、そこに一羽のペンギンの姿が見受けられる。
んー……フンボルトペンギンに似た白黒のツートンカラーのペンギンだな。
だが、アレがどうやら被毛の一本一本が宝石だという珍鳥こと洞窟ペンギンのようだ。
で、その証拠とばかりに、盗品倉庫の窓から射し込んでくる太陽の光を、その身に浴びキラキラと被毛が神々しく輝いて見える。
「如何にも生きている宝石って感じだな。強欲な貴族共がアレを欲する理由がわかった気がする。」
「強欲な貴族ねぇ。なんだかんだと、どんな連中かわかるわ」
「それはともかく、洞窟ペンギンは、そこにある降りの中にいる個体だけなの?」
「さぁねぇ、だが、追い剥ぎ共のボスは間違いなく何羽も捕まえている筈だ。まったく、一羽くらい恵んでほ……ああ、冗談だよ、冗談! たがら睨まないでくれ!」
「そういえば、追い剥ぎ共のボスが捕まえた洞窟ペンギンを知り合いの貴族に売り捌く話をしていたぞ。」
「な、何ィィ! それは一大事だ!」
さて、チビとノッポのハンターことチビウスとノッポウスの話だと、生きている宝石であり、そして美しく神々しい洞窟ペンギンは、俺達がいる盗品倉庫以外の場所に捕らえられているようだ。
オマケに追い剥ぎ共のボスと一緒にいるっぽいぞ。
「あ、そういえば、人狼はどこだ?」
「気配は全く感じないわね、ダーリン。」
「ああ、本当にいるのかどうか怪しくなってくるレベルだ。」
「ですねぇ――というか幻だったんじゃないですかぁ?」
盗品倉庫の奥には、洞窟ペンギンは押し込められている檻があるくらいで、その他は――アルェ、人狼はいないのかよ!?
むう、なんだかんだと、いない方が助かる!
「あー……。」
「ん、どうしたんです、ダハーカ教授?」
「むう、ニヤニヤ笑ってる。なんだよ、気持ち悪いなぁ……。」
ん、ダハーカ教授が突然、ケタケタと笑い始める……ぶ、不気味なオッサンだな。
しかし、急にどうしたんだ、このオッサン……。
「メリッサ君、スマン……。」
「え、何がですか? 突然、謝られても何がなんだか……。」
「うむ、先程、人狼はいない――と、言ったが撤回させてくれ。」
「ちょ、どういう……ギャ、ギャフッ!」
「ちょ、オッサン、何をするんだ!」
むう、人狼はいない――と、言っていたけど、それを撤回するとダハーカ教授が笑いながら言う。
と、その刹那、メリッサの顔面に、そんなダハーカ教授の左腕の肘が突き刺さるように叩き込まれる……う、うわ、ブチッとメリッサの頭が、枝からもぎ取れた果実のように、首と胴体が分離してしまったぞ!
「ふええ、首がもげちゃったじゃないですか!」
「うお、肘打ちの一撃で首と胴体が分離するなんて凄いパワーだ!」
「ひゃわあ、メリッサちゃん、首がもげ落ちたのに生きてる!
「おおお、お前、ゾンビだったのか!」
「あれ、忘れました? 私はゾンビだって言ったじゃないですか! つーか、いきなり何をするんです、ダハーカ教授!」
「いきなり? ハハハ、スマンな。なんだかんだと、盗まれた手荷物を取り返すことができたワケだし、オマケに他の洞窟ペンギンが捕らわれていることも知ってしまった以上、我慢ができなくなってしまったのだよ……殺戮の衝動がなァァァ~~~!」
「ダ、ダハーカ教授、アンタは一体……。」
「ああ、そうそう……人狼とは、この私のことだ。」
「「「な、なんだってー!」」」
え、えええ、ダハーカ教授が件の神出鬼没の人狼だって⁉
むう、間違いなくダハーカ教授自身が、そう言い放ったぞ!




