外伝EP08 魔族に転生したんだけど、とりあえず仕事を探してみます。25
八千メートル級の巨大な山に囲まれたトンでもなく広大な盆地でもある兎天原の名前の由来だけど、兎の頭のカタチをしているからって話がある。
それが本当なのか確かめてみたいもんだ。
なんだかんだと、俺は空を飛ぶことができるしね。
と、それはともかく。
「追い剥ぎ共め! こっちが協力してやっていることを忘れやがって!」
「まったくだぜ! つーか、あんな連中と協力するために、俺達はこの森にやって来たワケじゃねぇのに……。」
「なあ、奴らと手を切って、俺達だけで洞窟ペンギンを捕獲しに行こうぜ!」
「ああ、それもいいな。もう我慢ならねぇし!」
さて、追い剥ぎ共のアジトとして再利用されている廃ホテルの二階へあがると同時に、そんな複数の声が聞こえてくる。
追い剥ぎ共と協力関係にあるマシュルカの森に住まう稀少動物の一種こと洞窟ペンギンの捕獲を目論むハンター共の声だろう。
「チビとノッポのコンビがいる。アイツらがハンターかな?」
「そうよ、そうに決まっているわ、ダーリン。」
「アイツらを見ていると、某お笑いコンビを連想してしまうぜ。」
洞窟ペンギンを捕獲しようと目論んでいるハンターは、チビ男とノッポ男のコンビである。
例えるなら、某お笑いコンビである――が、どちらも凶悪な面構えをした悪党って感じだ。
なんだかんだと、追い剥ぎ共の手を組んで悪事だし、そこら辺は仕方がないか――。
「なあ、そんなことより、チビとノッポのハンターが今、出てきた部屋には、ご丁寧にも『盗んだモノは、ここに仕舞うこと!』と書いてあるプレートが貼ってあるぞ。」
「盗品倉庫って感じだな、あの部屋は――。」
「ムムムッ……あの部屋に私の盗まれた手荷物や服があるかもしれん!」
追い剥ぎ共が集めた盗品の倉庫発見か⁉
チビとノッポのハンターが出てきた部屋の出入り口の扉には、それを示すプレートが貼ってあるワケだし――。
「アイツらには私達の姿が見えていない……うおー!」
「あ、ダハーカ教授!」
「今、声が……う、うお、盗品倉庫の扉が勝手に⁉」
「誰かが入り込んだんじゃね?」
今だッ――と、ダハーカ教授はポノスが奔流となって放出している魔力のおかげで姿が見えないことを逆手に取るカタチで、チビとノッポのハンターが今までいた盗品倉庫の中へと駆け込むのだった。
だが、姿は見えなくても〝声〟は聞こえてしまうという欠点があるようだ。
「嫌な予感がするぜ。」
「嫌な予感……だと!?」
「ああ、追い剥ぎ共のボスが何重にも鎖が巻いてある箱とか、如何にも曰くつきって感じの箱を何個も、ここに仕舞っていたからな。」
「そういえば、追い剥ぎ共が捕獲した洞窟ペンギンも、確か盗品倉庫内にいたな。アレを俺達が捕獲したモノとして持ち出すのもいいと思わないか、相棒?」
な、何ィ、盗品倉庫内には、追い剥ぎ共に捕らえられた洞窟ペンギンもいる……だと!?
それが本当なら、ヤスが描いた絵と同じ姿をしているのが気になるところだぜ。
「相棒、盗品倉庫に戻るぞ!」
「おう!」
「ダーリン、私達も盗品倉庫の中に!」
「ああ、わかっているさ。」
チビとノッポのハンターの後を追いかけるカタチで、盗品倉庫の中に入ってみるとしよう。
「ウギャアアアッ!」
が、その直後、先に盗品倉庫内に入り込んだチビとノッポのハンターのどちらかの悲鳴が響きわたる……な、何があったんだ⁉
「ヒイイーッ! チビウスゥゥ……や、やられた……狼男にィ……人狼にィィ……ガクッ!」
「ノ、ノッポウスゥゥゥ~~~! 死ぬなァァァ~~~!」
チビのハンターがチビウス、ノッポのハンターがノッポウス……ちょ、そのまんまの名前じゃないか!
で、チビウスってハンターが盗品倉庫内にいた〝何か〟に襲撃されたようだ。
もしかしてダハーカ教授……狼男キターとか言ってたし、もしかして〝いる〟のか、アレが⁉
「よしよし、回収だ。うん、無くなったモノは何もないぞ。オマケに捕らえられた洞窟ペンギンも無事で良かったぁ……。」
「ダ、ダハーカ教授、ご無事!」
「うん、私が無事? どういうことだ?」
「ほらほら、足許にいるチビのオッサンが何者かに背中をズタズタに引き裂かれてぶっ倒れているじゃないか!」
「うおわっ! 何が起きたのだ! この男は何故、負傷しているのだ!」
「オ、オッサン、テメェいつの間に……わ、仲間が何人も! どこから入り込んだんだ!」
「そんなことより狼男は出た……だと⁉」
むう、盗品倉庫の中に足を踏み入れると同時に、スゥ――と、再び姿が見えるようになってしまう。
要するに、ポノスが奔流となって俺達の姿を見えなくしていた隠形術とやらの効果が消えたってことだ。
さて、なんだかんだと、姿が見えるようになってしまったワケだし、盗品倉庫内にも出没した狼男――人狼について訊いてみるとしよう。




