外伝EP08 魔族に転生したんだけど、とりあえず仕事を探してみます。17
俺の目の前には、巨大な鶏の丸焼きが、ドーンと見受けられる。
ポノスと合体した状態であったけど、俺が仕留めたことになっている魔獣ピコポンの成れの果てである。
ん~……香ばしい匂いが漂っているぜ。
と、そんなピコポンの丸焼き――ローストチキンと言っても代物の調味料が塩である。
なんだかんだと、こんなんでいいよ。
シンプルが一番、美味いって言うしな。
それはともかく。
「あ、あれぇ、こっちの方だろう? アイスホッケーのマスクをかぶって、オマケにチェーンソーを持っていた花嫁怪人は?」
「アレは玩具だよ。ほら、ほら~。」
「うわ、チェーンソー……ん、刃がゴムじゃないか!」
「莫迦、本物を持ってくるワケがないじゃん。」
「あ、私が持ってる日本刀は模造刀じゃないわよ、本物よ☆」
「そ、そうか……。」
「むう、何、その淡泊な反応は! とにかく、これだけは言わせてもらうわよ。中フレイヤ……ご先祖様と一緒にしないでほしいわね!」
「ついでに言っておくが、魔族の兄さん、アンタの足許にいるお猿を捕獲する気なんてないぞ。安心してくれ。」
さて、小フレイヤと大フレイヤは、原始的な猿の一種であるワオキツネザルであり、俺の弟でもあるユウジを捕えようと思ってはいないようだ。
「中フレイヤ? ああ、あのセレブな奥様のこと? そういや、一緒じゃないな。」
「ああ、ご先祖様なら多分、屋敷に戻ったと思う。泥棒に大事な蒐集品を盗まれたらしい。」
「そ、そうなのか……え、ご先祖様⁉」
「うん、そうらしい。ま、容姿もそっくりだし、確定だと思う。」
「おい、そんな話はともかく、ローストチキンが冷めてしまうぞ。」
「う、兎が鶏肉を食べてるゥゥゥ~~~!」
あのセレブな奥様という感じの美女――中フレイヤは、小フレイヤと大フレイヤのご先祖様のようだが、俺には何がなんだかさっぱりだ。
もしかして、アニメやゲームによくある設定のエルフ等の長寿種、或いは自然の摂理に反するカタチで寿命を延ばしている魔術師とか、そんな感じなんだろうか⁉
さて、兎であるヤマダが、こんがりと焼けたピコポンの肉をバクバクと美味そうに食べている……これまた驚きだぜ!
「ちなみに、俺はこの眼鏡チビの曾祖母の姉に当たる存在なんだぜ。」
「な、なにィィ! じゃあ、お前は見た目の若いBBAなのか!」
な、なんだと、大フレイヤは小フレイヤの曾祖母の姉……だと⁉
またまた、驚きだな……い、一体、どういうことだ!
「ああ、大フレイヤは歌姫なんだ。」
「え、お前、歌姫なのか? じゃあ、そのウエディングドレスのような真っ白な衣装はステージ衣装なのか?」
「まあね~☆ つーか、さっきから俺の胸ばっか見てないか?」
「み、見てねぇよ……ゴ、ゴメン! 見ました!」
「ダーリンのエッチィ! そして巨乳大嫌いィィ!」
「そういえば、知り合いの軍人達を慰問しに真珠湾へ出張ったら、運悪く日本軍の爆撃を受け、気づいたら兎天原にいたんだっけ?」
「ま、そうなるかな。つーか、ヤマダとは敵同士だな!」
「むう、本来いるべき世界での話だろう? それに、あの戦争が終わってから七十年は経っているって小フレイヤから聞いたぞ。」
「詳しいことはわからんけど、こっちと本来いるべき世界では時間の流れ方が違うみたいだ。」
むう、話を聞いていると大フレイヤ、それに小フレイヤは、どうやら俺と同じ世界からやって来たっぽいぞ。
「そうそう、私と乳牛女も獣人飛行隊の隊員だから、お見知りおきを――。」
「おい、誰が乳牛だ! 貧乳眼鏡ェェ!」
「おいおい、飯を食いながらケンカをすんな、お前ら!」
大フレイヤと小フレイヤも獣人飛行隊の隊員だって⁉
ま、まあ、ここにいる以上、そうだとは思ったぜ……し、しかし、忙しないなぁ、コイツら。
「隊長、祝賀会の最中でありますが珍獣ハンターの出没情報であります!」
「なんだと! モグモグ……こりゃ、早々と仕事が舞い込んできそうだぞ!」
「う、うむ……。」
ん、今度は旧日本軍の軍帽のような帽子をかぶった一匹の喋る鼠が慌てながらやって来る。
獣人飛行隊の隊員だろうなぁ。
で、獣人飛行隊の隊長であるヤマダに対し、そんな報告をするのだった。
「もしかして洞窟ペンギンを狙っている連中がいるのか⁉」
「そうであります! ハンターが洞窟ペンギンの住処があるマシュルカに向かうのを見かけたであります!」
洞窟ペンギン⁉
マシュルカという森のどこかに、そんなペンギンの住処があるようだ。
うーむ、あくまで予想だが、崖に見受けられる小さな洞窟に住んでいる陸生ペンギンなのかも――。




