外伝EP08 魔族に転生したんだけど、とりあえず仕事を探してみます。6
「しかし、魔族をロモソンの町以外で見かけるなんて珍しいな。神族を怖がってあそこからあまり出てこないと聞くしね。」
「ロモソンの町? 神族?」
「ダーリン、ロモソンの町は私達、魔族しか住んでいない町のことよ。ちなみに、兎天原の南方にあるオアシスの町よ。」
「ふーん、そうなのかぁ。」
「あ、ちなみに私達、夢魔は同じ魔族の中でも開拓者精神に満ち溢れているから、兎天原の各地に割といるわよ。」
へえ、魔族しか住んでいないオアシスの町があるようだな。
で、この世界は兎天原というらしい……や、やっぱり、俺が知っている世界じゃないようだ。
「さて、俺は魔族だろうと気にしないぞ。さ、店の中に入ってくれ!」
「お、おう!」
「ダーリン、どうせ特にやることがないし、ここで仕事でも始めましょうよ。」
「そうだなぁ、俺達は一文無しだし……。」
とりあえず、喋るアライグマが運営するホテルで働いてみるかな。
なんだかんだと、俺は一文無しだ。
ここは別世界かもしれないけど、どこへ行くにも金が要るしねぇ……。
「ああ、名乗っていなかったな。俺の名前はウルカヌスだ。ホテルのオーナー兼鍛冶屋を運営しているモノさ。」
「鍛冶屋? あ、ああ、あの煙は鍛冶工房の煙突から出たモノだったのね。」
「ま、そんなところさ。さ、着いたぞ。」
「え、斧とか剣が収納されている棚がある部屋?」
「あ、弓や槍もあるわよ、ダーリン。」
喋るアライグマことウルカヌスに案内された部屋を一言で説明するなら武器庫である。
斧や剣、それに弓矢や槍といった武器が収納されている棚が、部屋のあっちこっちに見受けられるしね。
さて、武器はともかく、鎧兜なども見受けられるが、その大きさは小動物サイズである。
鍛冶屋でもあるアライグマのウルカヌスが、小動物である自分の寸法に合わせたモノだろうなぁ。
「兄貴、火縄銃のような古式な銃も収納棚の中に見受けられるぞ。」
「つーか、俺達がこんな場所に案内して何をやらせる気なんだ?」
「ああ、そりゃ、ここにある武器で〝とあるモノ〟の狩りを行ってもらうためさ。」
「か、狩りだってーっ! 狩人になれって言うのか?」
ウルカヌスは俺達に狩りをさせる気のようだ。
むう、初仕事キターって感じだが、どんな対象を狩れって言うのやら……。
「なあ、俺達に何を狩れって言うんだよ。」
「ああ、ピコポンだよ、ピコポン。」
「ピ、ピコポン、なんだか可愛い名前の対象だな。」
「ダーリン、可愛いのは名前だけよ。ピコポンっていうのは鶏の姿をした魔獣のことだったと思う。」
「に、鶏の姿をした魔獣だって⁉ ハハハ、兄貴、ある意味で楽勝じゃん!」
「鶏なら俺達でも狩れるな、ユウジ!」
「そ、そうかぁ? だといいんだが……。」
「あ、あのぉ、そのピコポンって、もしかして象さん並みにでかい鶏だった筈ですよね?」
「お、兎ちゃん……ルリちゃんだっけ、ビンゴよ。ピコポンは巨大な鶏ね。」
「「「な、なんだってー!」」」
ちょ、ウルカヌスは俺達に象のように大きな鶏を狩れって言うのかよ!
むう、ポノスの言う通り、〝可愛いのは名前だけ〟の存在のようだなぁ……。
「とにかく、ピコポンを狩りに行ってみようぜ、兄貴!」
「む、中世の騎士みたいな格好だな。」
「どうだ、カッコイイだろう!」
巨大な鶏と聞いて俺は気乗りがしないんだよなぁ……あ、別に怖いからって理由じゃないぞ、断じて!
さて、そんな俺とは違ってやる気が満々なユウジは、武器庫内にあった鎖帷子とサーコートを身に着けている。
「お猿の騎士って感じだな。」
「何気に似合ってるわね。」
「そ、そうかぁ?」
「さてさて、武器を持ったな? じゃあ、早速、ピコポンの生息地を向かってくれ。そうそう、案内役を呼んでおいたぞ。」
「ん、テンガロンハットをかぶった陸亀?」
なんだかんだと、件のピコポンとかいう可愛い名前とは裏腹な存在の生息地を知らなくちゃいけないよな。
とまあ、そんなワケでウルカヌスが案内役だというテンガロンハットをかぶった一匹の陸亀を呼ぶのだった。




