EP7 俺、家出姫と出逢います。
表紙にダンディーなヒゲのおじさんの顔がついていたり、オマケに空を飛んだり、喋ったりもする奇妙な本――ブックスの中には、この世界で廃れてしまった系統の魔術の記録が、しっかりと残されている。
例えば、未熟者の魔女である俺でも、なんとか使いこなせるカード魔術とかね。
ただ、痛いのは使ったカードはしばらくの間、使用不能になることだ。
それに同じカードが何枚もあるワケではない。
ブックスから貰った俺個人専用のカードデッキの中には、カードのダブりがないしね。
おっと、そんなことより、深淵の水とかいう真っ黒な水が湧く禍々しい泉が、ディアナスの樹海の中にあるようだ。
で、そんな汲んできた深淵の水を溜めてある大型魚専用の大型の水槽の中に、髑髏茸、死臭茸、毒蛾草、魔界樹の葉っぱという即席のゾンビをつくることができる魔法の薬の材料を混ぜ込んだ俺は、アシュトンの白骨死体を沈めるのだった。
「これでいいんだよな?」
「ああ、そのまましばらく待つんだ。」
「うーん、ホントにアシュトンさんは生き返るんでしょうね?」
「あ、深淵の水でしたっけ? 水槽の底が真っ黒で見えませんけど、泡が……わ、そんな泡がたくさん!」
お、おお、なんだ、真っ黒な深淵の水が満たしてある水槽の底から、ボコボコボコと激しく泡が浮いてくる!
「うおおおお、苦しいっ……苦しかったぁ!」
その刹那、〝白い〟禍々しいモノが、ジタバタと忙しなく水槽の中から飛び出してくる!
「はわ、骸骨だァァァ~~~!」
「ふむ、魂が上手い具合の骨の定着したようだ。上手くいったぞ、キョウ!」
「え、えええ……ってこたぁ、アシュトンは動く骸骨として蘇ったワケだな!」
骨さえあれば、アシュトンは助ける――みたいなことをブックスが言っていたけど、なるほどなるほど!
だけど、こんなかたちで蘇るなんて……む、むう、皮肉な話だ。
「お、メリッサにミネルさん……んんんん、なんじゃこりゃあああああっ!!」
蘇って早々、アシュトンは悲鳴を張りあげる。
何せ、肉というの肉がきれいさっぱり消滅してしまった故に、その身は動く白骨死体と化していたワケだし……。
「ぜ、絶対に許されざるよ! こんな姿になってしまったら、何も食べられないし、何も飲めないじゃないか! ああああ、最悪だよ……欝だ。死にたくなったぜ……。」
「てか、もう死んでるんじゃね?」
「う、うむ……。」
「死んでるぅ? は、まさかぁ……。」
ちょ、全身の肉という肉は消滅し、残された骨だけの状態なんだし、自分の置かれた状況に気づけよ!
ちなみに、コイツがそんな状態で活動できているのは、甦る前のタダの白骨死体だった時に、俺が額に刻み込んでおいた契約の呪印のおかげだったりするワケだ。




