外伝EP08 魔族に転生したんだけど、とりあえず仕事を探してみます。2
登場人物紹介
・美島ユウタ――交通事故に遭って事故死……と思われたが兎天原に魔族として転生する。
・ポノス――ユウタをダーリンと呼ぶ少女の姿をした小悪魔。
「お猿が喋ったんだが、NOと……嘘だって言ってくれよ……。」
「YES! YES、YES、YES! ホントにのことさぁ~☆」
「うく、馬鹿にされている気分だぜ……。」
「ニャハハ、馬鹿にしているに決まってるじゃん。だってさぁ、ダーリンったら当たり前のことをマジマジで訊いてくるというボケをかましてきたしねぇ☆」
お、おいィィ、俺はボケをかましたワケじゃないぞ。
キャリーケースの中にいる狐面のお猿――ワオキツネザルが喋ったから本気で驚いているんだ。
つーか、誰が信じられるか、お猿が喋るだなんて――。
「なあ、いい加減、ここから出してくれないかな?」
「この中は狭苦しいからね。」
「う、うおー! 狐面のお猿がもう一匹……ん、真っ白な兎もいるぞ!」
「あ、分厚い本も入っているわよ、ダーリン。」
ん、キャリーケースの中のには、喋る狐面のお猿がもう一匹、オマケに喋る真っ白な兎の姿も見受けられる。
ついでに分厚い本も一冊……そりゃ狭いなぁ。
「つーか、お前らは何者なんだ? 喋るお猿と兎なんて初めて見るんだが……。」
「ん、そういうアンタは……ん、ユウタ兄貴じゃないか!」
「え、ユウタ兄貴⁉ な、何故、俺の名前を――ッ!」
「あ、俺、俺……俺だよ。ユウジだよ。アンタの弟のユウジだよ!」
「な、何ィィ!」
キャリーケースの中にいるワオキツネザルが、俺の弟のユウジ……だと⁉
コ、コイツ、何を言い出すんだァァァ~~~!
『おい、この部屋が怪しいぞ。』
ん、突然、そんな声が聞こえてくる……若い女の声だ。
「う、うわあ、アイツらが俺達の居場所を嗅ぎつけたようだァ――ッ!」
さて、そんな若い女の声が聞こえてくると同時に、キャリーケースの中にいる弟のユウジと名乗るワオキツネザルが騒ぎ出す。
まったく、俺の私室の外から聞こえてきた声の主とは、何かしらの因縁があるっぽい気がする。
「ダーリン、この部屋にドアに鍵をかけておいて正解だったかもしらないわよ。見て見て、部屋の外に変な女がいるしね。」
「な、なんだってー! それは本当かい、ポノス!」
俺の私室の外に変な女がいる……だって⁉
と、ポノスが私室の出入り口の扉にある覗き穴を顔面を押しつけながら言う。
よ、よし、確認だけでも行っておくべきだな――。
「むう、アイスホッケーのマスクをかぶった真っ白なウエディングドレスを着た女……花嫁がいるぞ。」
「ニャハハハ、私も同じような衣装を着ようか、ダーリン?」
「うむ、それもいいな……っつーか、お揃いの赤いチェックの寝間着だな、俺達。」
サイズは違うとはいえ、俺とポノスは同じ赤いチェックの寝間着を着ている。
ま、まあ、悪くはないかなぁ……っと、それはともかく、私室のドアにある覗き穴から外の様子を覗き込むと、奇妙な女がうろつく姿が映り込む。
「あの女は何者なんだ! 俺の家の中に何を……。」
「兄貴、この部屋の外は俺達の家じゃないぞ。」
「な、なんだと、ユウジ! それはどういうことだ!」
「知るかよ、そんなこと! とにかく、兄貴の部屋が〝異世界〟と繋がったことだけは確かだけど……。」
「い、異世界……だと⁉」
信じられないねぇ……キャリーケースの中にいるワオキツネザルも弟のユウジが変化したモノであるかは信じられないっつうのに、俺の私室と異世界が繋がったなんて言われると正直、困るし、混乱する。
と、その前に、俺は交通事故に遭ったワケだ。
あのトンでもない痛みと衝撃は忘れないぞ、絶対に……。
「あ、このキャリーケースには魔獣封印の呪詛がかけられているわね。」
「ん、なんだ、そりゃ?」
「ま、とにかく、解除っと……えいッ!」
弟のユウジだと名乗る喋るワオキツネザル+αを放り込まれていたキャリーケースには、ポノス曰く、魔獣封印の呪詛とやらがかけられているようだ。
まったく、さっきから何はなんだかわからんことばかりが連続で俺に襲いかかってくるぜ。
ふう、いい加減、頭が本当に混乱しそうだぜ……。
「ふう、やっと出られたぜ。しかし、兄貴も愛梨は、この世界の神様に贔屓されているなぁ。なんだかんだと、俺みたいにお猿の姿にならなったワケだし……。」
「え、その物言いから想像すると、身近なところに愛梨もいるのか!」
「うん、この部屋の外に出れば逢えるかもよ。」
「むう、そうなのか……。」
むう、俺の妹の愛梨も身近なところにいるっぽい。
ユウジと違って人間の姿のままのようだぞ。
く、何がなんだかわからんことが続くけど、俺の部屋の外で何が起きているんだ……こりゃ確認しに行ってみなくちゃいけないな。
例え、危険な雰囲気が醸し出しているアイスホッケーのマスクをかぶったウエディングドレスを着た奇妙な花嫁と遭遇したとしても――。




