外伝EP07 兎転生その21
アメーバを連想させる巨大な粘液状の生物……初めて見るモノだぜ。
ん、そういえば、こういう原始的な生き物が、この世界もそうかもしれないけど、〝最初の生物〟なんだよなぁ。
俺達はこういう生物から気の遠くなるような時間を経て進化したんだ。
それを忘れちゃいけないよな。
さて。
「ゴスズン……オ帰リナサイ……俺達ズット待ッテタ。」
「ん~……とりあえず、ご苦労様。んじゃ、出口に案内してもらえる?」
「ハイ……了解デス……。」
「ちょ、大丈夫なのかよ!」
「ええ、大丈夫です。このコ達は〝私〟には従順ですから――。」
「ちょ、お前にだけかよ……ヒッ!」
ホ、ホワイトショゴスだっけ?
この白濁色の粘液生物はルリのみ従順らしい……ほ、本当かなぁ?
と、とりあえず、信じておくか……。
「お、通路があるぞ。」
「はい、あの通路の先が出口ですね。ま、どこに繋がっているのかは、私にもさっぱりですけど――。」
説明が遅れたけど、所々、破損個所が見受けられた木製の螺旋階段を降りた先――秘密の抜け穴の底は、殺風景な大広間である。
で、ここに住まうホワイトショゴス共の住まいでもあるせいかは知らないが、ジメジメとした湿った場所でもある。
と、そんな秘密の抜け穴の底こと殺風景な大広間には通路が見受けられる。
どうやら、あの通路の先に出口があるようだけど、どこに繋がっているのかってことをルリも知らないようだ……いや、そういう肝心な前世の記憶が戻らないって言った方が正しいのかもしれない。
「この通路の先がどこに繋がっているのか、アンタ達なら知っているかしら?」
「ハイ、知ッテイマス。確カ、エフェポスノ村ノ村ハズレニアル教会ニ繋ガッテイル筈デス。」
「なんだってー! わらわも初めて知ったぞ!」
「ハハハ、ウミコも初耳なのかよ。ま、何はともあれ、エフェポスの村に戻れるだけでもありがたく思わないとな……ん、村はずれの教会に繋がっている? まさか、あそこでは?」
「ん、キョウ姐さん、心当たりでも?」
「ああ、なんとなくだけどな。」
ホワイトショゴスは通路の先が、どこに繋がっているのかってことを知っているようだ。
で、教会に繋がっているって聞くとキョウ姐さんがニヤリと微笑む。
心当たりのある場所……なのか?
「あ、そうそう、この通路の中に設置されている照明器具は壊れているので点灯しません。」
「うへぇ、そういう細かい前世の記憶だけは残っているのかよ。」
「エヘヘヘ、そんな感じですねぇ☆」
「ま、とにかく、進んでみよう。なんだかんだと、懐中電灯もあるしな。」
「お、おう、そうだな。」
ま、なんだかんだと、真っ暗闇の通路の中を進んでみるか――。
懐中電灯の灯りがあれば照明器具が壊れていて点灯しない広場の通路の中も安全に進めるしな。
「お、通路の壁に壁画のようなモノが……。」
「あ、それは生前の私が描いた落書きです。」
「わかるよ。何を描いたのか、それはさっぱりわからない絵があっちこっちにあるしな。」
「あ、それは時空魔術の原理を絵というカタチで表現したモノです。」
「え、あの落書きが? 信じられないわね……。」
「う、うん……。」
むう、通路の中を懐中電灯で照らすと、壁のあっちこっちにワケのわからない落書きだらけであることに気づく。
だけど、そんな落書きの中には、何気に重要そうなモノも含まれているっぽいぞ。
で、ルリ曰く、時空魔術の原理を絵で表現してあるらしいけど、俺には何がなんだかさっぱりだ……。
「お、通路の先に光が見えてきたぞ。出口か、ひょっとして――。」
「よし、行ってみよう。」
真っ暗闇の通路を懐中電灯の灯りを頼りに進む俺達の視線の先に、ほのかな光が……あそこが出口か!?
「ん、話し声が聞こえないか?」
「風の音じゃない?」
「え、空耳じゃないのか、ユウジ?」
話し声が聞こえる……かすかにだけど。
うーん、空耳かな?
「いや、間違いなく声だ。耳を澄ませみろよ!」
だが、ほのかな光……通路の出口から射し込む光に近づくにつれて聞こえてくる声のトーンが大きくなってくる。
間違いない、何者かが通路の出口を抜けた先に〝いる〟……そう断言できる展開になってきたぜ。
「ん、出口の扉がないぞ。だが、その代わりとばかりに人間の親指くらいの大きさの穴が壁に……。」
「なるほどね。あの光は壁の穴から射し込んだモノのようだ。」
出口が……出口に繋がる扉らしきモノがないぞ。
その代わりとばかりに、通路の先は堅牢な石壁で封鎖されているじゃないか!
で、そんな堅牢な石壁には人間の親指大の大きさの穴が見受けられる。
つまり、真っ暗闇の通路の中に射し込んでいる光というのは、石壁に見受けられる小さな穴から射し込んだモノであったワケだ。
「主、忘レテシマイマシタカ?」
「え、何を?」
「コノ石壁ヲツクッタコトデス。」
「し、知らなかった、そんなこと……いや、思い出せない!」
「おい、それはともかく、やっばり誰かいるぞ、この先に……ん、真っ白なウエディングドレスのような服を着た女の姿が見える。」
ちょ、この堅牢な石壁で通路を塞いだのは、ルリの前世こと魔術師ヘイボンのようだ。
しかし、その理由をルリは思い出せないようだ。
肝心なことを思い出せないとか、都合のいいことこの上ない話だぜ。
さて、俺は堅牢な石壁に見受けられる人間の親指大の大きさの穴の右目を押しつけるカタチで覗き込む……ん、ウエディングドレスのような豪奢な純白のドレスを着た金髪碧眼の若い女の姿が穴の向こう側に見受けられるぞ。
もしかして、あの女がかすかに聞こえてきた話し声の主かもしれない……いや、多分、間違いないだろう。
「真っ白なウエディングドレスのような服を着た金髪碧眼の若い女? ああ、もしかすると大フレイヤじゃないかな?」
「大フレイヤ? うーん、それじゃ、小フレイヤとか中フレイヤもいるワケ?」
「ビンゴ! その通りだぜ。エフェポスの村には同じ名前を持つ女が三人いるんだ。ちなみに、胸の大きさで大小中を分けて呼んでいるんだ。」
「そ、そうなのか……あ、確かに、あの女は大……巨乳だな。」
「だろう?」
へえ、同じ名前を持つ人間の女性が三人ねぇ……って、おい。
胸の大きさで大中小の区別をつけているのかよ……もしかして、容姿なんかが瓜二つの三人姉妹だったりするのか?




