外伝EP07 兎転生その15
その純白の光の奔流は、一瞬にして巨鳥共――アルゲンタビス共の視力を奪うのだった。
とはいえ、すぐにでも視力は回復してしまうかもしれない。
だが、奴らのもとから逃げ出すチャンスでもある。
「グ、グエエエ、なんだ、これは!」
「ま、まぶしいっ!」
「人間共が使う信号弾ってモノじゃないのか!」
「ビンゴ! さ、今のうちに逃げさせてもらうわよ、デヤーッ!」
あの小さな赤いボールは遠くにいる仲間に居場所を知らせたりする時に使用する信号弾のようだ。
ルリはそれを襲いかかってきたアルゲンタビスの一羽の削岩機のような嘴の中――口内に放り込んだワケね。
さ、なんだかんだと、ルリはアルゲンタビス共のもとから逃走に成功し、俺達がいる地下に埋もれた遺跡の内部へと通じる通路の中に飛び込んでくる。
ついでに、そんなルリの救出に向かったフィンネアの使い魔である動き回る骸骨達も一緒だ。
「よ、よし、ここに入り込めば、あの猛鳥共も追ってくることはないだろう。」
「あの巨体じゃ、ここには入ることはできないしな。」
「――が、それと同時に、俺達はここから出られなくなったワケだ。この先がどうなっているか、さっき愛梨とヘラが言ってただろう?」
「う、うわあ、確かにキョウ姐さんの言う通りだなぁ……。」
よっしゃぁ、アルゲンタビス共はここには来れない……た、助かったぁ!
そう思ったのも束の間である。
「この先には環を描くように配置された石の柱……環状石柱と門があるだけよ。」
「脱出口は、アンタ達がアルゲンタビスって呼んでいた巨鳥がいる場所のみなのよねぇ……。」
「うげぇ、やっぱりか! 袋の鼠じゃねぇかよ……。」
むう、こりゃ袋の鼠状態だ。
この状況を打開し、無事に脱出する方法を考えなくちゃな……。
「夜を待てばいいんじゃないかしら?」
「おお、アフロディーテさん、冴えてるぅ!」
「だけど、夜になると吸血鬼共が蠢く筈だぜ。」
「な、なんだってー!」
「ヴァンキーが現れるかもな……。」
夜になれば、なんとかなる――と、アフロディーテは言うけど、それそれで危険な時間の訪れでもあるようだ。
アスモダイの森の中には、未だに姿を見せないヴァンキーを筆頭とした如何にも夜行性の生物――吸血鬼系の怪物も潜んでいるワケだし。
「うーん、とりあえず、地下遺跡の外にいる連中が諦めていなくなるのを待ってみようぜ。」
「ユウジ、甘くないか? 絶対、諦めなそうだぞ。ああいう奴らは……。」
日が暮れるとヴァンキーなど吸血鬼系の怪物が現れそうだし、さらに危険度が増しそうだ……。
地下に埋もれた遺跡の外を飛び回っているアルゲンタビス共が獲物と定めたルリのことを諦めていなくなることに期待したいが、多分、難しいだろうなぁ……。
やれやれ、今いる地下遺跡から瞬時に別の場所へ移動できりゃいいんだが……。
「うお、気づけば、空が紅に……ゆ、夕方か!」
むう、なんだかんだと、空が紅に染まり始めてきたぞ。
時間が、夕方が訪れるのって意外にも早いなぁ。
『このウサ公、出て来やがれぇ!』
「わ、まだいるぞ。アイツら……。」
地下に埋もれた遺跡の外を覗くと、紅に染まる天空を舞う巨大なシルエットがいくつも……く、アルゲンタビス共はまだ諦めてはいないようだ。
まったく、しつこい奴らだなぁ――ッ!
「よし、解析が終わったぞ。」
「ハイハイ、ご苦労様。上手くいけば、ここから脱出できるな。」
「わ、表紙にヒゲのオッサンの顔がついた本……あ、ああ、キョウ姐さんの相棒のブックスだったな。つーか、ここから脱出できる……だと!?」
キョウ姐さんの相棒こと意思を持ち表紙にヒゲのオッサンの顔がついた空飛ぶ不気味な本ことブックスは、一体、何を解析したのやら……ん、もしかして愛梨とヘラが地下に埋もれた遺跡の内部で見つけたという環状石柱と門を解析したのか!?
「キョウ姐さん、何を分析させたんだよ?」
「ん、今いる通路にある環状石柱と門だよ。」
「ビンゴかよ! で、何をする気なんだ?」
「そりゃ、〝門〟を起動させるんだよ。」
「キョウ、さっきも言ったけど、あの門は私が読んだ碑文によると別世界からの一方通行らしいわよ。」
「ああ、多分、それは〝あっちの世界〟の都合だろう……いや、門の向こう側の世界のみが一方通行のようだ。」
「じゃ、じゃあ、〝こっちの世界〟なら普通に行き来が可能なの?」
「ああ、そうみたいだ。ブックスに分析させたところのよればな。」
おお、今いる地下に埋もれた遺跡の奥にある環状石柱に囲まれている門を起動させることができれば、俺達は助かるかも――。
し、しかししかし、別世界からは一方通行なのは痛すぎる。
仮のこの世界へやって来た場合、戻ることができないしなぁ……。
ん、待てよ、俺やトモヒロももしかして他の一方通行の門を潜って、この世界へやって来た可能性もあるんじゃ……。
「おお、じゃあ、早速、起動させてくれよ!」
「まあ、待てよ。まったり行こうぜ。」
「そうも言っていられないぞ。外にいる奴らの会話を聞いている限りじゃ……。」
キョウ姐さんはまったり行こうぜ――と、気楽なことを言っているけど、地下に埋もれた遺跡の外からはアルゲンタビス共の焦りを感じさせる会話が聞こえてくる。
『おい、ヤベェぞ! あの化け物共がこっちへ向かってくる気配を感じるぜ!』
『デカさなら俺達が圧倒的に勝っているが、何せアイツらは集団で襲いかかってくるからなぁ……。』
『つーか、ラーテルだよ、吸血鬼のラーテルだ。巨大な俺達であっても、まったく怯むことなく襲いかかってくるからな。』
『そういや、仲間の一羽がアイツらに襲われたことがあったな。くそ、一旦、引くぞ!』
翼を広げると七、八メートルにもなる巨大鳥のアルゲンタビス共が集団で襲いかかってくるとか、化け物、吸血鬼版のラーテルと呼ぶモノが近づいてきているようだ。
おいおい、一体、何が近づいてきているんだ……ひょっとして魔獣ヴァンキーか⁉




