外伝EP07 兎転生その6
「愛梨ったら馬鹿正直だわ。ヘラさんの適当な物言いを真に受けちゃうんだから……。」
「は、はあ、それは一体……。」
「ヘラさんったら、この森の中にタマゴローが入っていくのを見たって言うのよ。あ、私達はあの魔獣を捕まえようと思っていたワケだし、それを信じちゃったワケね。」
「ちょ、タマゴローはここに……。」
「ウニャ、なんだか人違い……猫違いをしちゃういニャいかニャ?」
「う、うおー! その猫ちゃんは、まままま……まさか!」
「俺がタマゴローだニャ。」
「も、もぎゃー!」
うむー……愛梨の奴、ヘラさんって奴の言うことを真に受けちまったようだな。
そんなワケでアスモダイの森の中に……ったく!
「む、妙な音が聞こえる!」
「ウミコ、妙な音だって⁉」
「まさかヴァンキーでは!」
おいおい、妙な音が聞こえるって?
まだアスモダイの森の中に足を踏み入れていないのに、件のお猿に似て非なる魔獣ヴァンキーが現れる兆しなのか⁉
「ウ、ウギャアアア! ウェスタ姐さぁぁぁん!」
「ん、勢いよく何か飛び出してきたぞ!」
「ありゃ、驢馬だな。」
「あ、私の使い魔のロバ吉よ。アスモダイの森の中を偵察させていたってワケ。」
「そんなんだ、ウェスタさん……う、うわ、奇妙な生き物が尻に噛みついていないか!」
「う、うお、眼鼻がないけど、顔面の真ん中の口がある真っ黒なお猿だ!」
「ア、アレのどこがお猿なんだよ! つーか、アレが魔獣ヴァンキーなのかも!」
ア、アスモダイの森の中から勢いよく一頭の驢馬が飛び出してくる。
どうやらウェスタの使い魔のようだ。
と、そんなウェスタの使い魔の驢馬ことロバ吉の尻に猫くらいの大きさの不気味な生き物が噛みついている。
むう、禍々しい……目鼻はないけど、顔面の真ん中に大きな口があるお猿のような生き物だ……アレが魔獣ヴァンキー!?
「アレはヴァンキーじゃない。グロンキーだ!」
「グロいモンキーの略?」
「そうなるわね。ああ、アスモダイの森は魔獣の宝庫よ。アレはその一種に過ぎないわね。」
ちょ、アスモダイの森という場所は、魔獣と呼ばれるモノのバーゲンセールじゃないか!
「うは、村の側になんて危険な場所があるんだ!」
「な、なあ、その前にアスモダイの森に生息する魔獣がエフェポスの村に入り込んだりしないワケ?」
と、トモヒロが怪訝そうにウミコに尋ねる。
うーむ、俺としても気になっていたんだよなぁ。
アスモダイの森の危険性について――。
「ああ、大丈夫じゃよ。魔物ハンターが常に常駐しているし、オマケに魔獣が嫌うモノが数多くあるので心配無用じゃ。」
「は、はあ、ならいいんだが……。」
へえ、なんだかんだと、魔獣対策は成されているワケね。
まあ、当然だろうなぁって場所にあるしな、エフェポスの村は――。
「ど、どうでもいいのですが、私の尻に噛みついているコイツをどうにかしてください! つーか、けっこう血を吸われたんですけど……。」
「む、それはともかく、化け物の身体がバラバラに砕け散ったぞ!」
「そりゃグロンキーの弱点が太陽光だからよ。光を忌み嫌うクセに鬱蒼とした巨木が密生しているおかげで夜のように真っ暗なアスモダイの森から明るい外界に出てきてしまったから、ああなってしまった――と、そんな寸法ね。」
むう、バキバキパキンッ――と、グロンキーの真っ黒なお猿のような身体が砕け散って塵と化す。
ど、どうやら太陽の光が弱点のようだ。
むう、まるで吸血鬼のようだな。
「あ、そうだ。アスモダイの森に生息する魔獣は大半が吸血鬼の類らしいのう。」
「ニャハハン、俺の同胞の猫の魔獣は除くけどニャ。」
「きょ、吸血鬼だらけなのかよ! 十字架とかニンニクを用意しなくちゃ!」
アスモダイの森の中は、タマゴローと同胞である猫の獣人吸血鬼に分類される魔獣だらけのようだ。
「十字架にニンニク? 吸血鬼の弱点なのか? 知らなかった、そんなこと……。」
「え、この世界では効果がないの? つーか、本当に弱点なのかについては俺もわからんのだが……。」
「皆さん、アスモダイの森の中に入りましょう。私はなんだかんだと、この森の奥で目覚め特に何なく出ることができましたよ。」
「う、うーむ、それは単に運が良かっただけなのでは……。」
「そうですかね?」
「ま、何はともあれ、中に入るぜ。愛梨とヘラさんが、この億に進んだんだろう? ヴァンキーを筆頭とした魔獣に襲われたら元の子もないぜ。」
「あ、ああ、そうだな!」
むう、ルリが落としたという大事なペンダントを探す一方で愛梨、それにヘラさんとやらも探さないとな。
やれやれ、探しモノが増えたって感じだ……よし、意を決し、アスモダイの森の中へ入るぞ!




