外伝EP06 お猿魔術師と貧乳死霊使い その29
「な、なあ、ありゃ本物の女だよな?」
「う、うむ、間違いねぇ! 貧乳だが間違いなく女だ!」
「ヒューッ! 久し振りにオカマじゃない本物の女を見たぜ!」
「貧乳って、なぁに、お父さん?」
「ん、俺達、男のように胸が真っ平らな胸のことさ!」
「へえ、そうなんだ! やーい、貧乳、貧乳ゥゥゥ~~~!」
「テ、テメェら! 貧乳、貧乳ってうるせぇぞ!」
兵舎の外――マーナタウンの街中を一言で説明するなら都会である。
流石に自動車なんてモノを見かけないけど、馬車は忙しなく通りすぎて行く。
で、そんな街中には煉瓦造りではある四階、五階はあるそこそこ高層な建物が軒を連ねている。
お、アレは俺が本来いるべき世界では、すでにレトロなモノと化しているガス灯ってモノかな?
へえ、レトロなガス灯という街灯もあっちこっちにあるので、ここは夜でもそこそこ明るいかも――。
さて、この区画は本当に男性しか住んでいない区画のようだ。
なんだかんだと、すれ違うモノの中に、女性も姿がまったく見受けられないしね。
と、ある意味で珍しい存在である男装しているフィンネアを除く女性――キョウ姐さんとレイラに行き交う男達の視線が集中する。
つーか、貧乳貧乳って子供に連呼されたキョウ姐さんは、今にもキレそうだぞ。
「あのクソガキ! 貧乳、人に在らずって言いたいのか!」
「う、うーん、それは飛躍しすぎでは……つーか、被害者妄想が激しいなぁ。」
「それより、あの建物が目的地です。」
「ん、ひょっとしてラーティアナ教団の総本山かな?」
キョウ姐さん、ガキンチョの言うことなんて気にするなよ……。
だけど、貧乳はある意味で人間の女にとってはBADステータスだと思うし、なんだかんだと気にすることなのかもしれないなぁ。
それはともかく、教皇がいるという一際、大きな建物が見えてくる。
「あの建物はヴァルハーラ大聖堂だったかのう、レイラ?」
「ですね、兎さん……おっと、人が来ます。」
「わわわ、そうじゃったのう!」
「うは、危ない危ない。ここではタダの獣を演じなくちゃいけないんだったな!」
「あ、ああ、そうだった……。」
あの一際、大きな建物はヴァルハーラ大聖堂というのか――っととと、危ない危ない!
人間の領域であるマーナタウンでは、タダの獣を演じなくちゃいけないんだった……あ、危なく喋り続けるところだったぜ。
「さ、入りますよ。私は顔利きなので、すぐにお逢いできると思います。」
『そ、そうなのか、アンタってVIPなんだな!』
さてと、俺達はマーナタウンの街中にある一際、大きな建物であるヴァルハーラ大聖堂の中へと足を踏み入れる。
しかし、本当にレイラは顔利きのようだ……VIPってすげぇ!
ヴァルハーラ大聖堂の出入り口を守護している無骨で屈強な巨漢の兵士が、すんなりと通してくれたワケだし――。
「レイラ司教、お久し振りです。あ、あれぇ、アナタは引きこもっている筈では……。」
「キーシン族の集落に引きこもり気味のアナタが、ここにいらっしゃるなんて珍しいことです!」
「むう、私はヒキコモリじゃなありません!」
「お、おお、この建物の中には女性がけっこういるぞ!」
「はい、ここは男性が住む区画と女性が住む区画の間にあるのです。そして、ここは男女の隔たりがない唯一の場所だったりします。」
「へ、へえ、そうなんだ。」
ヴァルハーラ大聖堂内には、たくさんの女性の姿も見受けられる。
レイラ曰く、唯一、男女の隔たりがなく過ごせる場所らしい。
まったく、マーナタウンってところは男女が共に過ごすと修行の妨げになる等の面倒くせぇ古い戒律なんかを純粋に守っている連中が多すぎだぜ。
ん~……男女の住まう場所が違うとか、まるで男子校、女子高って感じの同性同士が共同生活を送るそんな制度が飛躍した感じだな。
「皆さん、ここですよ。この部屋に教皇猊下がいらっしゃいます。」
「フフフ、久し振りに逢うかなぁ……あ、そうそう、きっとビックリするぜ。」
「び、びっくりするですって⁉ お姉様、それは一体……。」
さてさて、俺達はヴァルハーラ大聖堂の主――全ラーティアナ教徒の頂点に立つ存在である教皇の部屋へとやって来るのだった。
ん、そういえば、キョウ姐さんは教皇と知り合いっぽかったな……い、一体、何にビックリするんだ⁉
「ま、見てのお楽しみってヤツだぜ……お、いたいた☆」
「んんん、なんだ! 如何にも位の高い僧侶って感じの衣装を着た白い大きな生き物がいるぞ!」
「お、おい、ユウジ……あ、ありゃ、ホッキョクグマだ!」
「な、なんだってー! あ、言われてみれば確かに――ッ!」
「やあ、キョウじゃないか! それにヒキコモリのレイラも一緒のようだね。あ、バナナ食べる?」
ちょ、教皇って人間じゃなくて白くて大きな熊……ホッキョクグマなのかよ⁉
う、うーむ、意外である……ビックリだーッ!




