外伝EP06 お猿魔術師と貧乳死霊使い その21
「テ、テメェはレイラ司教! だが、丁度いいぜ……お頭の仇を討つ絶好のチャンスだぜ!」
「ところで、アナタ方のお頭はお元気ですか?」
「おう、今はベッドで呻き声を張りあげているが命には別状はねぇ……って、大有りだ!」
「そうだ!大有りだ! テメェのせいで、俺達の仲間の大半がマーテル王国のクソ共にパクられちまったんだ! その落とし前も着けさせてもらうぜ、うおらぁ!」
山賊共は、ある意味で壊滅的ダメージを受けているっぽいぞ。
ボスはベッドの上で呻き声を張りあげて苦しんでいるようだし、オマケに仲間の大半がマーテル王国の治安維持組織……俺が本来いるべき世界に例えると、警察のような組織に逮捕されてしまっているみたいだ。
で、そんな山賊共の大半が逮捕しまった背景には、どうやらレイラが関わっているようだ。
と、その話よりも山賊共のひとりが、雄叫びを張りあげ、両手に握る手斧を頭上に振りあげながら、レイラに襲いかかる!
う、うわ、殺る気満々だな!
さっきのフィンネアを銃撃した奴もそうだったけど、流石は情け容赦がない悪党だぜ。
「う、うお、急に眠気が……く、くぎゅううっ!」
「な、なんだ! あの山賊が立ったままの状態で眠ってしまったぞ!?」
何が起きたのか、さっぱりだ
レイラに接近し、両手に握る手斧を頭上の振りあげたまでは良かったのだが、突然、そんな状態のまま山賊は眠ってしまったんだが……。
「ア、アレは……⁉」
「知っているのか、ウミコ!」
「うむっ!」
ん、ウミコの真っ黒くて長い耳が、衛星からの電波を受信したアンテナのようにギンギンに反応している。
山賊が立ったままの状態で何故、眠ってしまったのか⁉
その理由を理解したって感じの反応だろう。
「あのキーシン族の女は、伝説の魔術、或いは魔拳と恐れられし薬妖拳の使い手かもしれん!」
「そ、その薬妖拳とは一体⁉」
「説明しよう。薬妖拳の原典は、現在のように傷薬や風邪薬といった薬を大量に量産することができる態勢が整う以前にさかのぼる。当時は前述したように傷薬や風邪薬を量産できなかったので無論、それらは高価な代物であった。それ故に盗難が相次ぎ困り果てた時の権力が、この事態に憂う魔術師や拳法家、それに薬剤師達に命じ、そして生み出された拳法でもあるのじゃ!」
「そ、そんな歴史があったのね……。」
「ちなみに、薬妖拳の達人は、一摘みの毒薬で巨象のような巨大な対象をも暗殺できたという。無論、睡眠薬も然り――。」
「な、なるほど! レイラは一摘みの睡眠薬で、あの山賊を眠らせたのかァァァ~~~!」
へ、へえ、そんな凄くて奇妙な憲法が存在しているのか――。
で、レイラはそんな薬妖拳の達人なのかもしれない!
「私は平和主義者です。暴力を絶対に使いません。」
「う、睡眠薬を使うとか、そっちの方が質が悪い気が……あ、なんでもないです!」
うーん、暴力で解決するより、睡眠薬等の薬剤を使った解決方法の方が質が悪い気がするんだが……む、これ以上、何も言わない方が良さそうだな。
キュピーン――と、レイラの穂先が鋭く尖った槍のような視線が、俺に対し、ギランと向けられているしねぇ……。
「どうでもいいのですが、アナタ達は何故、村に? まさか略奪が目的ですか? なんだかんだと、同族が住む集落ですよ?」
「うるせぇ! 何が同族だよ、クソが! そんなモノは関係ねぇよ。俺達が何不自由なく飲み食いできりゃいいんだよ! 同族だろうか人間だろうか知ったこっちゃないのさァァァ~~~!」
「うわぁ、如何にも悪党的な発想!」
「うむ、やはり堕ちた同胞……外道ですね。いいでしょう、アナタ方、全員を一度に片づけて差しあげましょう。」
「な、なにィィ! 面白ぇ……よし、テメェら、このクソ女を一斉に八つ裂きにしようぜ!」
「「「オオオーッ!」」」
如何にも悪党が言いそうなことをペラペラと……。
やはり、堕ちた同胞とレイラが言うだけあって良心の欠片もない悪党どもだな、
さてさて、レイラが二十人は確実にいる山賊共を一斉に片づけると言い出す。
おいおい、まさかと思うけど、広範囲に及ぶ毒薬でもバラ撒こうっていうのか⁉
ううう、怖いなぁ、もしそうだったら、俺達まで被害を受けそうだぜ……。




