外伝EP06 お猿魔術師と貧乳死霊使い その12
遥かなる神話の時代に起きた物事なのか、それとも童話や小説のような創作の類いなのか?
童話作家だか小説家なら、エフェポスの村にもいるっぽいし――。
それはさておき、ケモニア大陸のど真ん中にあると同時に、もっとも広大な区域でもある兎天原は、かつて皇帝竜とか神竜と呼ばれているドラゴンに支配されていた時代があったという。
で、当時は、竜天原と呼ばれていたようだ。
さて、そんな竜天原と呼ばれていた当時の兎天原を支配していた皇帝竜または神竜が、兄妹、そして子供達に対し、
「長く生き過ぎじゃね、俺ら? だからよぉ、竜天原を支配するのが面倒くさくなってきたことだし、ここは思い切って隠居しねぇか、お前ら?」
そう言ったそうだ。
で、それに対し、兄妹や子供達は、
「イイね、俺の賛成だ。支配するのって確かに面倒くせぇし……。」
「まあ、私はどっちでもいいんだが、その前に仮に隠居するにしても、我々が身を隠す場合は限られているぞ。それを考えているのか?」
「私は反対だ。この区域から我々がいなくなったらどうなると思う?」
「同胞のドラゴン達、それに人間、獣、獣人にとって我々は、この区域においての信仰の対象……〝神〟だってことを忘れちゃいないよな?」
「ハハハ、神がいなくなったら、そりゃヤベェことが起きるぞ! だから反対だね!」
当然、賛否両論の返答をするのだった。
「じゃあ、人間に変身すればいい。何食わぬ顔をして、そんな人間社会に潜り込み陰ながら、この区域の行く末を見守ろうじゃないか? で、その方法なら既に考えてあるから心配するな。」
とまあ、そんなカタチで皇帝竜または神竜と呼ばれるドラゴンが編み出した何食わぬ顔で人間社会に潜り込むための〝術〟が、あの人化の法の起源だとか――。
さて、人化の法にまつわる童話等の話は、ここまでにしておこう。
「おい、テメェら! 俺様の家の前で何をしているんだ! さっさと説明しやがれ、ゴルァァァ!」
「サ、サルタヒコ、その高圧的でストレートな質問は、相手を威嚇するようなモノだぞ、おい!」
「うっせぇな! 俺様は細けぇことが大嫌いなんだよ!」
「む、むう……。」
俺が今いるエフェポスの村を構成する十二の地域のひとつであるルサオー地区の象徴にような間違いなく樹齢千年は数えるだろう大木を刳り貫いてつくったサルタヒコの屋敷の前を怪しい人間の男達に対し、サルタヒコは高圧的な問いかけをするのだった。
「う、うお、なんだ、あの眼鏡は!」
「ウ、ウチのカーチャンみたいで怖い!」
「お、落ち着け、お前ら! ンンンッ……俺達はとある本を探しているんだ。」
「その本は生きている……魔導書の類である。」
「そういうことだ! 仮にソイツを持っていたら、さっさと俺達に渡した方が身のためだぜ、ヒヒヒヒッ!」
うは、予想通り!
俺がベトッフ・デ・ウフクバという呪文を唱えることで発動した魔術でぶっ飛ばしたゴロツキ共と同じ目的の輩……仲間だったか!
で、悪党が行うお決まりの脅し方とばかりに、男のひとりは上着のポケットから柄の部分に刃が折りたたまれたナイフを取り出し、ギランと刃を展開させながら、またまたお決まりの脅し文句をサルタヒコに対し、言い放つのだった。
「オラァ!」
「グ、グゴギャ!」
「うお、いきなりぶん殴った!」
む、むう、サルタヒコがノーモーションの状態から、いきなりとばかりに左右の鉄拳をナイフ男の顔面目掛けて交互に打ち放つ。
ちょ、不意討ちだろ、おい!
「ゴ、ゴギャ……鼻が折れた……。」
「おいおい、顔面の真ん中が拳のカタチにめり込んでるぞ!」
「テ、テメェ! 仲間、何をしやがる……フ、フゴゲッ!」
「俺様は細けぇことが大嫌いなんだ。つーか、ナイフを出して脅してきたのは、お前らの方だろう? ぶん殴られて当然だとは思わんのか、ゴロツキ共!」
確かに、最初に刃物を出して脅してきたのは、先程のゴロツキ共の仲間の方である。
ま、まあ、いきなりとはいえ、殴られて当然かな……かな?
「さて、さっさとここから立ち去らんのなら、さっきの男と同じ目に遭うぞ……いいのか?」
クワッ――と、一瞬だけど、サルタヒコの美貌に狂気が彩る。
ゴロツキ共を皆殺しにしてやる――と、殺気すら感じるぜ。
「お、おい、ここは引き下がった方がいいな……。」
「だ、だが、例の魔導書はどうするんだ?」
「し、知らねぇよ。ナイさんには適当に言いワケをしてけばいいさ!」
「うんうん、それもそうだな……グ、グワアアアッ!」
「アナタ達、逃げ出す気だったでしょう?」
「う、うおおお、ゲーハビッチさん!」
ん、ゴロツキ共のリーダー的存在が現れたぞ。
血の気の悪い青白い顔をした背の高いハゲ頭の男だ。




