外伝EP06 お猿魔術師と貧乳死霊使い その11
「イイな、イイな、人間って超イイな!」
「俺も人間になりたい! 人化の法を教えてください!」
「俺も俺も!」
むう、猿王ことサルタヒコの子分のお猿達の羨望の視線が、神社の巫女さんを連想させる白い衣と赤い袴というコントラストが艶やかに彩る和風美人という感じの姿の人間の女性の姿に変身中のウミコに集中する。
ちなみに、今、俺がいるサルタヒコの屋敷の中には、そんなサルタヒコの子分であるお猿……主にニホンザルが、最低でも三十頭は控えている。
なんだかんだと、サルタヒコはお猿達を束ねる存在であるボスザルって感じなんだなぁ……と、実感するぜ。
さて。
「包み隠さずに言おう。俺様のこの姿は、人化の法によって一応、人間の姿に変身はしているが、正確なところ失敗に終わっているんだ! んで、俺様は元々は雄である!」
「な、なんだってー!」
と、驚いてみたけど、人間の女性の姿に変身しているとはいえ、耳が兎のままであるウミコの変身に比べると、猿王ことサルタヒコの人間の女性に変身した姿のどこが失敗なのか、俺にはまったくわからない。
「なんだかんだと人間の姿でいられるのは、人化の法とかいう術のおかげなんだっけ?」
「ああ、違ぇねえ。だが、本来は〝人間の雄〟の姿になることができてこそ人化の法は成功なんだ。」
「そういえば、伝説じゃ人化の法を編み出した魔術師はドラゴンだったらしいのう。」
「ドラゴンがいるのかよ……だ、だけど、なるほどぉ! 人間の男の姿になってこそ大成功キターって感じかな?」
「そうだ……即ち、〝人間の雌〟の姿になっちまった俺様の場合は、人化の法が失敗に終わったというワケだ。」
「そ、そうなのか……ってことは、ウミコの変身も失敗というワケかな?」
「それは違うぞ。わらわは元から雌の兎だ。故に、人間の姿になっても性別に変化はないのじゃ。」
「へ、へえ、なんだか妙な話だなぁ……。」
ウミコは元から雌の兎なんで、例え人間の姿になっても性別に変化はないというワケね。
うーん、サルタヒコの場合は人化の法を行使し、上手い具合に人間の姿に変身できたのはいいが、なんの因果か性転換してしまったようだ。
だけど、サルタヒコの変身は俺としては失敗しちゃいない気がする。
なんだかんだと、ウホッ! イイ女――と、思わず言いたくなる美女に変身できているワケだしね。
「そ、そんなことより、この本……本のクセにパンをメチャクチャ食ってるぞ!」
「うお、猫の口のようなモノが!」
「さ、流石は生きている本……魔導書だ!」
「つーか、食べ物を与えてもいいのか? コイツは魔獣タマゴローが封印された本……いや、そのモノかもしれないんだぜ?」
ちょ、サルタヒコのことはともかく、キョウ姐さん……ソ、ソイツに食べ物をやるなよ!
空腹状態じゃなくなった場合、〝何をするか〟わからないだろうが――ッ!
「フ、フニャア……ゴトンッ!」
「あ、動かなくなった⁉ い、一体、何が……。」
「睡眠薬を急遽つくって、それをパンの中にぶちこんだのさ!」
「な、なんだってー!」
「キョウは〝薬〟をつくることに長けた薬剤師系魔術師だからな。睡眠薬をつくるなんぞ朝飯前だよな、当然?」
「まあな~☆」
へえ、キョウ姐さんは薬剤師系魔術師なのか――。
そんなワケで即席の睡眠薬をつくって、それをパンの中に突っ込んだってところだろう。
しかし、本当に生きている本なんだなぁと実感する。
猫のような口が飛び出し、パンをバクバク食べる上、オマケに睡眠薬の効果が遺憾なく発揮されたワケで――。
「おやび~ん! 屋敷の外に人間の男が何人もウロウロしてますよ!」
「なんだと! エフェポスの村には人間の男が住んでいない筈だが……怪しい。」
ん、大木を刳り貫いてつくられているサルタヒコの屋敷の外をうろつく人間の男がいるだと⁉
しかもサルタヒコの子分曰く、数人も……う、もしかして、さっきの連中の仲間では⁉
「きっと、この本を狙っているんだ!」
「しつこい連中だぜ。つーか、保安官のライオンに捕まった連中の仲間なのかも……。」
うーん、サルタヒコの屋敷の前をうろちょしている人間の男達は、まず間違いなくさっきの連中の仲間だろう。
まったく、例の本を狙っている連中の目的は、一体……。
「外にいる連中が何者かは知らんけど、ここに何をしてやって来たのか、その理由を訊いてみるとするか――。」
「ちょ、サルタヒコ! まったく、追うわよ、アンタ達!」
おいおい、外にいる連中に、ここへやって来た理由を訊きに行くって⁉
そりゃ勿論、例の本――無名の魔導書を奪いに来た筈だ。
とにかく、屋敷の外に出て行ったサルタヒコの後を追いかけよう。




