外伝EP06 お猿魔術師と貧乳死霊使い その8
猫の魂を宿す無名の魔導書が媒介となったとはいえ、魔術を使えたことは素晴らしいことだ。
空を鳥のように自由に飛べたり、火水風土の四大元素を自由に操れたり……。
アハハハ、この調子、いくつモノ魔術を行使できる大魔術師になってみたいもんだ!
「さて、このゴロツキ共をどうする?」
「警察に突き出そうぜ!」
「警察? 保安官のことか? 勿論、そのつもりさ……ほら、ウワサをしたら保安官がやって来たぞ。」
「う、うおー! ラララ、ライオン!」
ゴロツキ共の処遇は村の保安官に任せるのが一番である。
ウ、ウワサをすれば影ってヤツだな。
俺達が今いるルサーオ地区に保安官がやって来る。
が、そんな保安官は大きな野獣……ライオンだったからビックリ仰天である!
「またか、今日は何度、出動したことか……。」
「ヒ、ヒイイッ! その獲物を狙うような眼が怖すぎィ――ッ!」
本日だけで何度目の出動なのかは知らないけど、獲物を狙うハンターのような眼で俺を見るなよ……ぜ、全身が硬直して動けなくなっちまうじゃないか!
「ところで、その本から黒くて長い尻尾が見えるんだが……。」
「え、黒くて長い尻尾……う、ホントだ! これは猫の尻尾って感じだな。」
「ちょ、気づかなかったぜ。まさか尻尾が生えているだなんて……。」
ワオキツネザルとなってしまった俺にも無論、尻尾がある。
縞々の長い……と、それはともかく、無名の魔導書からビロ~ンと黒くて長い猫の尻尾のようなモノが飛び出していることに、今になって気づくのだった。
「ニャ~オ!」
「わあ、表紙から四本の黒い足が飛び出したぞ……って、どこへ行くんだ!」
「ん、この位置からだと方角は北かな?」
「お、追うぞ!」
うお、尻尾のお次は真っ黒な毛むくじゃらの四本の足だ。
そんな四本の真っ黒な毛むくじゃらの足が、無名の魔導書の表紙から飛び出す。
ムムム、尻尾はともかく、真っ黒な毛むくじゃらの四本の足が飛び出した無名の魔導書は、ニャ~と鳴き声をあげると、俺達が今いる位置からだと北に向かって駆け出すのだった……お、追いかけてみなくちゃ!
「この位置から北に向かうと、確か猿王の屋敷があったかのう。」
「猿王?」
「うむ、わらわと同じくエフェポスの村の古老のひとりじゃ。ちなみに、古老はわらわを含めると十二人いるぞ。」
「へ、へえ、そうなんだぁ……って、うお! ウミコが兎の姿から人間の女の姿に!?」
「フフーン、どうだ、美しいだろう? ま、とりあえず、ルサオー地区の北へ向かうなら、お猿の類いか、或いは人間の姿の方が何かと都合がいいのでな。」
軽い爆発音とともにウミコの姿が、赤い袴と白い衣というコントラストが艶やかに映える神社の巫女さんを連想させる衣装を身につけた容姿端麗な人間の女性の姿に変化する。
ちなみに、外見年齢は俺より一回り上って感じだからアラサー女子って感じかな?
で、長くて大きな耳はご健在なので、完全なカタチで人間に変身できているワケではないことにウミコご本人は気づいているんだろうか?
と、それはいいとして、ルサオー地区の北へ向かう場合、お猿か人間の姿で向かった方が、何かと都合がいいらしい。
「つーか、お前、女だったのか!」
「な、何ィィ! 今頃、気づいたのか! なんという失礼なお猿だ!」
雄なのか、それとも雌なのか?
人間の姿に変身することで初めてわかったってところだな。
そんなワケでウミコの性別が初めてわかったかも……。
「古老って兎のウミコの他は、鼠、牛、虎、龍、蛇、馬、羊、猿、鳥、犬、猪がいるんだっけ?」
「うむ、神出鬼没のリュウノスケさん以外は村の中に常にいるぞ。」
「うへぇ。まるで十二支の動物だなぁ!」
ちょ、古老って十二支を構成する動物達じゃないか――。




