外伝EP06 お猿魔術師と貧乳死霊使い その7
「うおー! お、お猿をナメんなよ、クソがぁ!」
「某人間を襲ってお菓子を奪うお猿を連想するんだ、俺ェェェ~~~!」
と、とりあえず、やってやる……やってやるぅ!
俺とトモヒロは身構える。
お猿の身軽さをナメんなよってヤツだぜェェェ~~~!
「ヒャハハハ、俺様のナイフ技を見せてやんよ、エテ公!」
「わ、右手に持っていたナイフが消えた……お、おわ、いつの間にか左手に!?」
「チッ……す、すばしっこいエテ公だぜ! だが、次はないぜ!」
ムムムッ……瞬時に右手に握っていたナイフを左手に持ち変えるという技をゴロツキは見せてくる。
ふ、ふう、なんとかゴロツキの攻撃を躱せたけど、次は危ないな……。
ゴロツキの野郎の眼を見ればわかるぜ……。
あ、あの眼は目的のためなら殺しも躊躇わない殺人鬼のモノだし――。
「また来たぞ! わ、もうひとりも!」
「あ、ああ、わかっている!」
ナイフ技を使ってくるゴロツキと一緒に、もうひとりのゴロツキも動き出す……得物は両手に装備した鋭い突起物のついたメリケンサックだ。
ソイツを両手に装備している……ったく、ゴロツキはこーゆー武器が大好きだよなぁ。
「さ、どうしたモノか……。」
『助かりたかったら五歩後ろに下がって叫ぶニャ! ベトッフ・デ・ウフクバと――ッ!』
「お、おうっ……え、今の声は一体⁉」
「と、とにかく、謎の声の言う通りにしてみようぜ……ベトッフ・デ・ウフクバ!」
「うおおー! ベトッフ・デ・ウフクバ!」
お、おいおい、今の声は一体⁉
だが、今は従うべきだよな!
そんなワケで俺とトモヒロは同時に叫ぶ――ベトッフ・デ・ウフクバと!
「おいおい、このエテ公共、妙なことを叫び出したぜ。」
「ま、待てっ! それ以上、ソイツらに近づくな……グ、グワアアア――ッ!
な、何が起きたのやら……。
ズドーン――と、ナイフを持ったゴロツキとメリケンサックを両手に装備したゴロツキが、まるで自動車にでも跳ね飛ばされたかのように激しく吹っ飛ぶのだった。
さて、ふたりのゴロツキが吹っ飛ぶ前後に、俺は見たぜ。
俺の目の前の空間が一瞬だけど、円型に湾曲するのを――。
「カメキチとクマゴロウがやられたぞ!」
「ヒ、ヒイイーッ! そんなことより、あのエテ公、魔術を使いやがったぞ!」
「おいおい、魔術は俺達、人間様の専売特許だろう? 何故、エテ公なんかが!」
あのふたりのゴロツキの名前は、まるで日本人みたいだな。
それはともかく、俺とトモヒロは魔術を使ったのかも!?
そ、そうか、謎の声が叫べと言っていたベトッフ・デ・ウフクバという言葉は、ゴロツキふたりをぶっ飛ばした衝撃波……いや、魔術を発動させる呪文だったのかも!
が、魔術を発動させるには、何かしらの媒介物が必要となってくる筈だ……ん、まさか⁉
「魔術が使えたのは、この本のおかげ?」
「ああ、多分な。コイツは魔導書らしいし……。」
うむー、なんだかんだと、猫の魂を宿す無名の魔導書のおかげなんじゃないかと……。
「お前らって魔術師だったのか!」
「キョウ姐さん、魔術かは知らんけど、アレは初めて使ったんだ。だから、そういうワケでは……。」
「まあ、お猿の魔術師がいても不思議なことではない。ここは兎天原の東方だからのう。」
「ど、どういうこと⁉」
「説明しよう。ケモニア大陸のど真ん中にあり、もっとも広大な区域でもある兎天原の東方に住んでいる人間は、あまり多くないのだ。大体、七対三の割合で獣、そしてその上級種である獣人が、住人に大半を占めている。故に、ここらでは魔術は人間の専売特許ではないのだ。」
うーん、そうなのか、ここらへん――エフェポスの村がある兎天原の東方に住んでいる人間は少ないのね。
そんなワケで人間の魔術師よりも当然、獣や獣人の魔術師の方が多いという理屈なんだろう。
「う、うおお、ヤベェぞ! ここは逃げた方がいいな……。」
「あ、ああ、ナイ様がクソ起こるかもしれないが……。」
「な、何をしている! 早く逃げ……ギャアアアーッ!」
「逃がすモノか、ゴロツキ共!」
「う、うおーっ! 長い耳から電撃を放ったぞ、あの兎ちゃん……。」
ゴロツキ共は分が悪い――と、悟ったんだろう勢いよく踵を返し、一斉に逃走しようとするのだったが、ウミコの真っ黒で長い耳から放たれた電流を浴びて今度は一斉に再起不能となるのだった。
「お、おい、今のは魔術だろう? 最初から使えよォォォ~~~!」
「フン、わらわは争い事が大嫌いなのだ。故に使わんかっただけじゃ。」
ウミコの奴、最初から耳からビーム……いやいや、耳から電撃を放ってゴロツキ共を一掃していれば、俺とトモヒロは危険な目に遭わずに済んだのに――。




