外伝EP05 迷宮図書館管理人と四十人の盗賊 その46
「思わず本気で背後から後頭部をぶん殴ってしまったが、コイツ……生きているよな?」
「うむ、気絶しているだけね。まったく、石頭とは、こういう奴のことを言うのね。」
子熊のアルテミスさん曰く、持っている棍棒でダーノウの後頭部を背後から本気で殴ってしまったんだとか――。
とはいえ、ダーノウは気絶しただけである……あ、でっかい真っ赤なタンコブが……す、凄く痛そうである。
「あらあら、ヘラさんにアルテミス。私達がここにいることがよくわかったわね。」
「フン、私の鼻をナメるなよ。つーか、お前、その鞄の中の蜂蜜とバターのサンドイッチが入っているだろう!」
「え、えええ、なんでわかったんですか! で、でも、あげませんよ!」
そういえば、熊の鼻は優れた嗅覚の持ち主だったわね。
確か、犬以上だったような……。
とまあ、そんな優れた嗅覚を活かし、古代人が奴隷と魔獣を戦わせて楽しんでいた鬼畜的娯楽施設であったアンゲロイ遺跡の西側の地下にある私達が捕らわれている牢獄区画へとヘラさんを伴ってやって来れたワケだ。
『まったく、使えない奴だなぁ。だが、獄卒はまだまだいるぜ!』
ナイって奴の声が再び聞こえてくる。
それと同時に、ドドドッ――と、何かが通路の前方、そして背後から何かがやって来る!
「うわ、真っ黒な人間、それに獣……闇魔獣⁉」
う、出現したのは、死界――冥府の泥と人間や獣の骨を材料につくられた人造不死者と言っても間違っていない気がする闇魔獣の群れだ!
『ハハハ、コイツらのストック数は千体以上とか言っただろう?』
「ちょ、さっきはもっとストック数が少なかったような……そ、そんなことはともかく、闇魔獣の大群に囲まれたてしまったわ!」
「う、うん……あ、ある意味で絶対絶命だね……。」
え、闇魔獣のストック数は千体以上⁉
ナイって奴は、さっきはもっと少ないって言っていた気がするんだけど……。
むう、とにかく、絶対絶命かも……。
私達を取り囲む闇魔獣の数は、最低でも五十体はいると思うし……。
「お、おい、ナイッ! テメェ、組織の資金をコイツらの創造に注ぎ込んだな!」
『イエース! 何か問題でも?』
「問題だ、馬鹿野郎! つーか、リーダーの俺の何も断りなく……グ、グワーッ!」
『黙れよ、小物! お前は俺達の傀儡だったんだよ。その役目が終わり生贄となる運命にあるモノに、ゴチャゴチャと指図される筋合いはねぇんだよ!』
なるほど、闇魔獣の大群をつくるに当たってアデプト団が貯め込んだ資金が使われていたのね。
ま、まあ、当然だろうとは思うけど……う、五十体は確実にいる闇魔獣の数体がクロを押え込む。
『闇魔獣共! ソイツらを覚醒の間へ連行しろ!』
「う、闇魔獣共が一斉に動き出した! ひゃあっ!」
クロを押え込むと同時、闇魔獣の大群が動き出す――わ、私達を覚醒の間とかいう場所へ連行する気のようだ。
ん、そんな覚醒の間とやらが、アンゲロイ遺跡のどこかにある秘密の地下室なのかも――。
「フン、その不浄な連中を一網打尽にできる対策なら考えてあるわ!」
「え、ヘラさん、どういうこと⁉」
「む、何か声は聞こえない……呪文のような?」
闇魔獣共を一網打尽にできる方法……対策があるって⁉
と、腕組をしながら、ヘラさんがそう言い放った直後、解読不明の奇妙な言葉――不思議な呪文のような言葉が聞こえてくるのだった。
「GYAAAAAA!」
「GAOOOAAAA!」
「GUGEEEEEE!」
う、私達を取り囲んでいる闇魔獣共が苦しんでいる。
なんて言っているか私にはさっぱりわからない不思議な呪文のせいかな、かな?
「う、頭が痛いです!」
「鎮魂歌と同じ効果があるようね。メリッサ、耳栓をするのよ!」
「は、はい!」
「ちょ、どういうことです?」
「誰が唱えているのかはわからないけど、アレは恐らく不死者を鎮め、その魂を冥途へと導く効果がある鎮魂歌と同じ効果あるモノよ。故に、ゾンビであるメリッサにも効果を発揮しているってワケ。」
「な、なるほど! うお、闇魔獣共の真っ黒な身体がボロボロに崩れ落ち始めたわ!」
へ、へえ、誰が唱えているのかはわからないけど、私にはなんと言っているかさっぱりな不思議な呪文には、不死者を鎮め冥途へと導く歌――鎮魂歌と同じ効果があるのね。
とまあ、そんなワケでゾンビであるメリッサさんに対しても効果を発揮しちゃっている……って、メリッサさんは偶然にも耳栓を持っていたようだ。
「流石はティターニア先生! 邪霊鎮めの呪文は効果絶大だわ。」
ティターニア先生って誰?
それはともかく、ウェスタさんが現れる……ん、ひょっとして不死者を鎮める呪文を唱えていたのって、そんなウェスタさんなのかも⁉




