外伝EP05 迷宮図書館管理人と四十人の盗賊 その43
「う、うぐっ……イタタタァ! 頭をぶつけちゃったわ……って、ここはどこ? 真っ暗闇なんですけど!」
ガッ――と、額を強打してしまったようだ。
うう、痛い、痛いィ……って、真っ暗闇で何も見えないんだけど、ここはどこなのよ!
「愛梨、そこにいるのね?」
「まったく、真っ暗闇って大嫌い!」
ん、アフロディーテさんと沙羅さんの声が聞こえてくる。
「ふええ、懐中電灯を持ってくるのを忘れました!」
「くそ、ここはどこなんだよ!」
「あ、兄貴、耳許で大声を張りあげないでくれっす!」
「ごすずん、ここはジメジメと湿った臭いがします!」
メリッサさん、兄貴さん、ヤス、アシュペリウスも真っ暗闇でどこにいるかはわからないけど、近くにいるようだわ。
「ここは牢屋だと思うであります!」
「う、ノネズミヒコさん……い、いたんですか!」
「え、ここは牢屋ですって⁉」
ノネズミヒコさん、いつから⁉
む、私の服の中にいるような……胸元がくすぐったいし!
と、それはともかく、ノネズミヒコさん曰く、ここは牢屋だとか……ちょ、私は……いや、私達はアンゲロイ遺跡に潜んでいるモノ達によって牢屋へと転送されてしまったのかもしれない。
「俺の目は真っ暗闇の空間でも利くであります!」
「ハ、ハハハ、流石は鼠!」
「俺は鼠じゃなくてハムスターでありますよ……。」
「ハムスターも鼠だと思うんだけど、この際、どうでもいいや――。」
「フン、どうでもいいが、さっさとここから脱出することを考えろよ。俺達はあのクソ共が北東魔術協会の本部から盗み出したアレを目覚めさせるための生贄にされちまうかもしれないんだぜ。」
「あ、そこの声はおかっぱ頭のチビ……いたんだね~☆」
「おかっぱ頭のチビって言うな、眼鏡チビ……ひゃあ、お前、そこにいたのよ!」
「あらら、私の右手が何か柔らかいモノを……ふーむ、そこにいたのね。」
ん、北東魔術協会の魔術師ジルヴァも一緒のようだ。
何もかもが真っ暗闇なので、どこにいるかわからなかったけど、私の右手が彼女の思わずイラッとしてしまい立派で豊満な巨乳を探し出すのだった。
「お、おい、いつまで触っているんだ! う、そういう趣味なのか……。」
「ち、違うってばァァァ~~~!」
「そんなことより、さっきから気になっていたんだけど、北東魔術協会の本部から何が盗まれたワケ? それに生贄がなんとかって物騒なことを言っていたけど……。」
「そ、そうそう、私もずっと気になっていたわ!」
むう、私は同じ女のコのお胸に興味がある〝そっち系〟の人間じゃないわ!
むしろ、大きな胸は大嫌い!
そ、そんなことより、北東魔術協会の本部から盗み出されたアレとは、一体……。
それに目覚めさせるには、生贄が……って、どうことなのか⁉
なんだかんだと、ジルヴァは知っているようなので訊いてみなくちゃ!
「死霊秘法だ。ヒヒヒッ……俺はアレを盗み出したんだ。」
「その声はクロ! アンタもいたのね!」
「いちゃ悪いのかぁ! さて、何重にも仕掛けられた罠を掻い潜り、死に物狂いで写本作成依頼ナンバー1の魔導書である死霊秘法を盗み出したと思ったら、アレを目覚めさせるための生贄される捨て駒にされだなんて……なんという喜劇!」
ん、クロの声が聞こえる。
真っ暗闇で何も見えないけど、あのオッサンも近くにいるっぽいわね。
「死霊秘法か、ウワサに聞くヤバさが超弩級の魔導書だっけ?」
「そんなモノをよく盗み出したわね。トンでもないオッサンだ!」
「し、しかし、しかし! アレを読みたがる好事家からの依頼が殺到しているのも、また事実!」
死霊秘法とは、危険度が超弩級クラスの魔導書なのか……。
い、一体、どんな内容なのか気になるわね……。
うう、探求心という名の炎が燃えあがったかも……。
「アレは……魔導書は生きている本だ。だがしかし、アレには超強力な睡眠魔術をかけてある。故に、お前らのような盗賊には目覚めさせるなんて無理だ……う、そうか! 我々を生贄に捧げて目覚めさせようって魂胆だな!」
魔導書は確かに生きている本だ。
危険度が超弩級である死霊秘法の場合、超強力な睡眠魔術をかけられて当然かもしれない。
オマケに、盗難防止のため何重にも罠が仕掛けられても当然である――が、クロは、そんな何重にも仕掛けられた罠を掻い潜るという神業で死霊秘法を盗み出すという行為をやってのけたワケだし、実は凄い盗賊スキルの持ち主なのかも――。
さて、生贄とは、強力な睡眠魔術を解除するこれまた強力な目覚まし時計なのかもしれないわね。
で、私達は、そんな生贄にされてしまうかもしれない……。
早く、ここから脱出しなくちゃ!




