外伝EP05 迷宮図書館管理人と四十人の盗賊 その40
北東魔術師協会の連中のひとりジルヴァって生意気なおかっぱ頭の男の正体は、中々グラマーなお胸の持ち主である男装女子であった。
でも、自分が女だってことを隠したがっているみたいだ。
フフフ、こういうヘンテコリンな奴をからかうのって楽しいかも――。
「男の格好をして何が楽しいのさ?」
「そ、そりゃ、俺は男だし、当然だろう?」
「え、男だって? ハハハ、じゃあ、その大きな胸は一体、何?」
「ひゃあ、胸を突っつくな!」
とりあえず、ストレートに訊いてみたけど、やっぱり、俺は男だ――と、ジルヴァは言い張るので、そのグラマーなお胸に右手の人差し指で突いてやるのだった。
「愛梨って実はいじめっコ?」
「そんなワケないじゃん!」
「うおおお、シルヴァさんって女だったのか!」
「はうう、この野郎! よ、よくも仲間にバラしやがったな!」
「い、痛い、痛いっ! 叩かないでよー!」
どうやら北東魔術師協会の仲間には、女だってことがバレていなかったようだ。
だけど、それがバレてしまった――むう、私のせい⁉
「おいおい、そんなくだらねぇことでモメるのは、そこまでだ。ほら、見ろ……どこからか湧いてきたぜ!」
「く、黒い……影のようなライオンのような巨獣⁉」
そ、そうだ、私達は、アデプト団が潜む敵陣――アンゲロイ遺跡にいたんだ。
そのことを忘れるところだったわ――と、真っ黒な影のようなライオンや虎といった猫科の大型肉食獣サイズの巨獣が現れる!
倒れた円柱があっちこっちに見受けられるアンゲロイ遺跡のどこかにある秘密の地下室に潜むヨルコとヤミコ、それにナイが差し向けてきた刺客の筈だ。
「あれは影魔獣だな。」
「影魔獣? あの真っ黒な奴のこと?」
「そうだよ、莫迦! 見てわからないのか、チビ!」
「ううう、またチビって言った! 自分のチビのクセに!」
「なんだとー!」
「まあまあ、ケンカをしないで……ん、もしかしてアレは死界の泥を使った使い魔の一種だったりする?」
真っ黒な影のような巨獣といった様相の怪物の名称は、影魔獣というのか――。
まあ、そのまんまって感じの怪物ね。
で、死界とやらの泥が媒介になっている使い魔の一種なんだとか――って、そんな死界って何?
「死界とは、一体……。」
「ありていに言えば、冥府のことよ。」
「め、冥府⁉ あの世のことですか!」
「まあ、そうなるな。しかし、よくわかったな、チビ。」
「そ、それくらい私にだって!」
「しかし、アレは禁術でつくられたモノだ。製造主は罰金では済まんぞ。」
「禁術? 要するに、〝使っちゃいけない〟類の魔術ってこと?」
「そうだよ、そうだよ! まったく、質問が多いなぁ、お前!」
フン、悪かったわね、質問が多くて――。
と、それはともかく、影魔獣とかいう使い魔は、公には使ってはいけない類の術――禁術によって生み出された使い魔のようだ。
むう、そういうことをお構いなしで使うあたりから、ヨルコやヤミコ、それにナイは外道の類なんだろうなぁ……。
「アレは五百年前にエフェポスの村で開催された魔術界の今後について話し合う会議で使用が禁止されたって、この図鑑にも載っているぞ。」
「ん、それってエフェポス魔術会議のことかしら、どれどれ……。」
「わあ、清掃のおばさん、それは俺の……ム、ムギュウウッ!」
「誰がおばさんだ! 私は若いぞ!」
「ニャハハ、お姉様、それより禍々しいわね、アレ……。」
「ああ、生物の死体を骨を召喚した死界の泥で人型、獣型の成形し、そして窯の中に入れて邪霊転生の呪文を唱えながら、焼成すれば完成する不死者みたいだしね。」
お猿でも理解できる魔術大図鑑……アハハ、奇妙な題名ね。
とまあ、そんなジルヴァは図鑑をジルヴァは持ち歩いているようだ。
で、それをヘラさんとウェスタさんが奪い取り、影魔獣製造に関するページに記された文言を口にする。
「ふえええ、じゃあ、禍々しい陶芸品って感じだね。」
「わお、ゾンビである私の仲間みたいなモノですね。」
「な、なんだと! そこの眼鏡……お、お前、ゾンビなのか!」
「はい、ゾンビですよ。証拠を見せましょうか?」
「ちょ、メリッサさん、上着をめくるのはいいけど、何故、左手にナイフが!」
「おい、そんなことより、あの影魔獣って奴が、こっちに近づいてきたぞ!」
そういえば、メリッサさんはゾンビだったわね。
そのことをすっかり忘れていたわ。
う、それはともかく、影魔獣が不気味な咆哮を張りあげるながら、私達の方に近づいてくるわ。




