外伝EP05 迷宮図書館管理人と四十人の盗賊 その37
ん、いつの間にか自動車の排気ガスのような猛烈な刺激臭も消え失せる。
ヨルコとヤミコがいなくなったからだろうか……いや、そうに違ないと思う。
あの刺激臭は、ヤミコが変身した真っ黒な霧状のモノが放っていたモノの筈だし……。
さて、ヨルコとヤミコは、チビデブハゲで大袈裟なオッサン……アデプト団のリーダーであるクロを置き去りにしていったようだ。
「うーん、このオッサンをどうしよう?」
「なんだかんだと、保安官に引き渡そうよ。」
「そんなことよりも、このオッサンを拷問しちゃおう! ウフフ……強引にでも、あのふたりの居場所を聞き出さなくちゃいけないし――。」
「む、むう、ヘスティア、その笑顔が怖いぞ……。」
そういえば、ウェスタさんの本名はヘスティアだったわね。
それはともかく、拷問しちゃおうって、おいおい……。
まさか、クロのオッサンを痛めつけてヨルコとヤミコの居場所を聞き出そうってクチですかー!
「ご、拷問……ヒッ!」
「愛梨、冗談よ。私がそんなことをするワケがないじゃないですぁ~☆」
「そ、そう? でも、〝眼〟は笑ってませんけど……。」
拷問をって話は冗談なのかぁ……。
でも、ウェスタさんの眼は笑っていないのよねぇ……。
うーん、なんだかんだと、ヨルコとヤミコに奪われた何かしらの魔導書の切れ端は、ウェスタさんが運営している孤児院内に額縁に入れて飾ってあったモノだし、そこら辺を考えると一見、穏やかそうに見えるけど、実は腸が煮えくり返るほど怒っていても当然だったりするのかも……。
「さ、このおぢさんを起こしてみましょう……えいっ!」
ん、ウェスタさんの右手には、何かしらの液体が入った円筒型の瓶が握られている。
で、そんな円筒型の瓶の中に入っている液体を気絶しているクロの口の中に、勢いよく流し込むのだった。
「ゲ、ゲブハッ! ににに、苦いィィィ~~~! 死ぬ死ぬゥゥゥ~~~!」
その刹那、カッ――と、クロが両目が開く……わお、苦悶に満ちた絶叫をあげたわ。
い、一体、何を飲ませたワケェ⁉
「ちょ、あのオッサンに何を飲ませたんです!」
「ん、兎天原で流通しているお茶の一種かな?」
「う、ヘスティア、もしかして一杯飲めば寿命が十年延びるって話がある超健康食品と言われる一方で、後味の悪さとトンでもなく苦味の二重苦を味わうことになるケモシュティーでは……。」
「ビンゴ! あ、まだまだたくさんあるから、お姉様もどうです?」
「だ、だが、断る!」
ちょ、なんですか、そのケモシュティーって⁉
両手で口を押えるヘラさんの顔色が、どんどん青褪めていくわ……。
と、ウェスタさんは、そんな不味いお茶を気絶しているクロの口の中に流し込むのだった。
「オ、オゲエエエッ! に、苦い、苦いっ……オエエエッ!」
「う、陸にあがった魚のように飛び跳ねている……。」
「アレは超不味いから仕方がないわ。」
「さて、激甘なお茶……ピクシーティーを飲みます? ケモシュティーの後味の悪さと苦味を中和することができますよ?」
「く、くれっ! なんでも言うこと聞くから頼むっ!」
「あ、そう? じゃあ、ヨルコとヤミコの居場所へ案内してもらえるかしら?」
「ううう……わかった! わかったから、ソイツをくれェェェ~~~!」
へ、へえ、ケモシュティーの後味の悪さとトンでもない苦味を中和する効果があるピクシーティーというお茶もあるのね。
それなら、私も飲んでみたいわ――と、そんなピクシーティー欲しさにヨルコとヤミコの居場所を話すとクロは叫ぶのだった。
「ある意味で拷問ですね……。」
「人聞きが悪いわね。そんなワケがないでしょう?」
「は、はあ……。」
ウェスタさん、アナタが何が言おうと拷問ですよ……。
と、それはともかく、クロはヨルコとヤミコの居場所について渋々と語り始める。
「アイツらならアンゲロイ遺跡にいる筈だぜ。」
「あ、そこって私が買収しようと思っていた遺跡よ!」
「む、ヘラさん、また地上げ屋的なことをやってるワケ?」
「当たり前でしょう? あそこは調べ尽されて何もない古代遺跡だし、私の舞台にするには最適でしょう?」
「「よ、よくありません! 古代遺跡保存協会の私達が許しません!」」
「あ、メリッサさんとヤス、それに兎獣人の考古学者達!」
「つーか、なんだかんだと、無事っぽいわね。」
アンゲロイ遺跡?
そんな調べ尽されている古代遺跡が、ヨルコとヤミコの根城らしいわね……ってことは、アデプト団のアジトってことかしら⁉
おっと、それより孤児院の中にいたメリッサさんを筆頭とした考古学者達は無事なようだ。
ヤミコが孤児院内に侵入した際に、彼女達は何もされなかったようだ……ふう、とりあえず一安心!




