外伝EP05 迷宮図書館管理人と四十人の盗賊 その11
さて、私や沙羅さんとは並行してアーヤとかいう女を押し倒し、馬乗りになって両手を後ろ手に拘束するスカアハさん達に、一旦、物語の視点を移します。
「この獣共っ! 私をこうやって捕らえていられるのも、後わずかよ!」
「ほう、お尻こを丸出し状態ながらも強気だな。うん、悪くない……。」
「ヒ、ヒイイッ! な、何、舌を舐めずり回しているのよ、このクソ魔女がァァァ~~~! ととと、とにかく、私ら月刊写本倶楽部のリーダーであるクロ……編集長が来るまでよ!」
「月刊写本倶楽部? まるでマーテル王国の首都などの大都市で販売されているような雑誌を製作している会社のような感じの団体名だな。おまえらはアデプト団ではないのか?」
「アデプト団? その団体名は捨てたようなモノよ! 今は魔導書を欲しがっている好事家を相手にした写本売買で稼がせてもらっているわ!」
「なんだか口の軽い奴ね。さっきからペラペラと……ま、とにかく、アデプト団は名称を変更したけど、やってることは以前と特に変わりなしってことがわかったわ。」
アーヤって女は、確かに口が軽いのかもしれないなぁ。
そんなこんなでアーヤは、自分の背中に馬乗りになって後ろ手に両手を拘束している状態のスカアハさんに対し、ペラペラと現在の組織名、そして何を目的に活動しているのかってことを語り始める。
「月刊写本倶楽部ですか? 私の愚姉も愛読していますね。あ、そういえば、いつだったか死霊秘法の写本を熱望しますってアンケートに書いて送ったけど、何も返事がなかった――と、怒っていましたよ。」
「ま、ヘラさんったら我儘ね~☆ つーか、死霊秘法って確かレア度がAA級だったかS級クラスの魔導書だったわね、ウェスタ?」
「はい、広大な兎天原……いや、ケモニア大陸全体を探し回っても、余程の強運の持ち主じゃなければ発見なんてできないほど現存していないって聞きますし――。」
「む、その話は後回しよ! 気配を感じる……誰かやって来たわ!」
へ、へえ、あのヘラさんも愛読している雑誌なんだぁ……。
おっと、そんなことより、誰かやって来たようだ。
ひょっとして編集長とやらでは――。
「よぉ、アーヤ! おいおい、何、捕まってんだよ。」
「ふえー、ミストさぁぁぁん!」
ミストさん――編集長⁉
と、アーヤが叫ぶ――と、そんな彼女の視線の先には、怒髪天を衝くとばりに髪の毛が逆立った背の高い若い男の姿が見受けられる。
「ミストさん、ヘルプミー!」
「助けろって? ああイイぜ。編集長にゴチャゴチャと文句を言われたんでイライラしていたんだ。まずは、そこのアヒルちゃん、お前からだ!」
編集長とやらに、何を言われたんだか――。
ミストというツンツン頭の男は、仲間のアーヤを助ける――という名目で両手ヲゴキゴキと鳴らしながら、アフロディーテさんに迫る。
「あら、本当に私からでいいのかしら? とりあえず、私に近づきたかったら、まずは羽根結界を潜り抜けることね。」
「なんだと!? うお、いつの間に俺は、空飛ぶ無数の羽根に囲まれて……ウ、ウギャアアア!」
「あ、そうそう、ソイツに囲まれたら最後、無傷で潜り抜けるなんて無理よ。羽根にはすべて自動追尾魔術がかかっているからね。」
アフロディーテさんは抜け目がないなぁ――。
いつの間にか、ミストを包囲するかたちで自動追尾魔術が施された空飛ぶ羽根……いや、羽根手裏剣と言った方が正しいかもしれないモノを結界のように張り巡らせていたワケだし――。
ちなみにミストは、全身に羽根が突き刺さった状態でゴトンと仰向けに転倒する。
「ところでアーヤさん。この男の他にも仲間が大勢いるんでしょう?」
「そ、そりゃもちろん! 私とミストさん以外に三十八人の仲間がいますとも! 無論、その中には編集長もいます。」
「フーン、四十人の盗賊って感じね。」
「盗賊じゃありません! 魔導書の研究家と言ってほしいですね!」
と、言ったところで誰も信じないと思いますよ、アーヤさん。
アンタ達は魔導書の研究を名目に各地から魔導書を盗み出しているワケだし――。




