外伝EP05 迷宮図書館管理人と四十人の盗賊 その5
~久々に登場人物紹介~
・スカアハ――黒影騎士団のリーダー。魔女のような黒い衣装の美女の姿をしているが、その実態は白い烏。
・アルテミス――アフロディーテと何かしらの因縁がある子熊。
・アシュペリウス――迷宮図書館に管理人。黒い大きな犬の姿をしている。
「なるほど、かつて仕えていたご主人様に愛梨がそっくりだと?」
「はい、お嬢様は私のごすずんにそっくりなのです!」
「へ、へえ、そうなんだ……。」
「さて、ここで逢ったのも何かの縁! 私が探している本を一緒に探していただけませんかね?」
エフェポスの村の北にあるという魔霧の峡谷にそびえ立っている塔の中のあるという迷宮図書館とやらの管理人を自称する喋る黒い大きな犬ことアシュペリウスから、一緒の本を探してほしいと誘われる。
うーん、どうしよう……って、かつての主にそっくりだからかな?
ジッと私に対し、熱い視線を向けながら、アシュペリウスは激しく尻尾を振っているわ。
うう、ドーンッ――と、突き刺さるような熱い視線がヤバい……こ、断ることができないっ!
「い、いいよ……。」
「おお、それはありがたい!」
わああ、しまった……思わず言ってしまった!
「愛梨、ウェスタが運営する孤児院の子供達の食料を買うために、ここへやって来たってことを忘れちゃいない?」
「わ、忘れちゃいないわ。でも、ついつい口……。」
「まあいいでしょう。人助け……いや、犬助けと洒落こみましょう。すでに食料ならたくさん買い漁りましたし――。」
「わ、ウェスタさん! そんなでっかい荷車をいつの間に!」
む、むう、なんだかんだと、ウェスタさんが運営する孤児院の子供達の食料を買いに、ここへ――年に一度、開催される大バザーへやって来たんだったわね。
そのことを一瞬、忘れることだったわ……って、ウェスタさんが大量の食料品が乗せてある荷車を引っ張っている。
き、気づかなかった……い、いつに間にィィィ~~~!
「盗難被害に遭った本を探しているのか、ワンちゃん。もしかして魔導書の類かな、かな?」
「う、ビンゴです、魔女の姐さん!」
「ふむ、ビンゴか! じゃあ、探した方がいいな。あの類の本は危険だ。」
「えええ、そんなにヤバいの⁉」
「うん、邪悪な意思を持っている場合があるからね。」
「邪悪な意思⁉ まさか、魔導書とは〝生きた本〟みたいな?」
なんと、なんと……生きた本なんてモノが存在するなんて!
流石は幻想世界ね……って、邪悪な意思を持ってる場合があるようだ。
「ん、魔導書といえば思い出したぞ。研究と称し、盗んだ魔道書のような危険な本の写本をつくることを生業とした外道共のことを!」
「あ、もしかして魔導書研究組織のアデプト団のこと?」
「ああ、ビンゴだ、モリガン。だが、奴らは私が率いる黒影騎士団が、あの象さんの依頼を受けて壊滅させたつもりだったんだが……。」
「じゃあ、仮にバザー会場で魔導書が売っているモノがいた場合、件のアデプト団の残党になりますかね。」
「うむ、奴らは研究と称して魔導書を盗み出していたからな。」
ふえええ、どこの世界にも危険なモノを研究している連中がいるのは、ある意味でお約束だなぁ。
で、スカアハさんが率いる黒影騎士団に壊滅させられたとか――。
「ん、魔導書は生きている本なんですよね? それに邪悪な意思を持っている場合もあるんでしたっけ?」
「ああ、そうだ。一種の魔法生物といったモノと化している。」
「じゃあ、写本も生きた本になるんですか?」
「むう、鋭いな。それが魔導書の厄介なところなんだ。私にも、どういう原理なのかはわからんが、魔導書ってモノのコピー――写本にも〝命〟が宿るんだ。」
「じゃ、じゃあ、購入者が危ない目に遭っちゃいますね!」
「う、うむ……。」
「ごすずん、だから、魔導書の類は写本であっても速やかに回収すべきなのですよ、ワンワン!」
うう、なんだかんだと、魔導書の類は写本であっても回収すべきだと思う。
命が宿った生きた本というだけならいいけど、邪悪な意思がやどっているなら、購入者が危険な目に遭う可能性がありそうだし……。
そういえば、読んだ場合、内容があまりにも異端で冒涜的なので精神を破壊されて発狂してしまう場合もあるらしい……ヒュー、怖い本だわ、魔導書って!
そんなワケで私には読む勇気が湧かないわね……。




