外伝EP04 ゾンビ考古学者と眼鏡少女 その24
ヘラさん、キターッ!
でも、姿が意外なのよね。
美人というよりは可愛い系の偶像って感じなのはともかく、私と一緒にいる彼女の妹のウェスタさんよりも、外見年齢が若く見えるだなんて……。
ウェスタさんが二十歳前後に見える一方でヘラさんは、本来の私――地味でチビで、オマケに冴えない眼鏡っコな十四歳の私とそれほど変わらない年齢の女のコの姿をしているワケで……。
ちなみに、身に着けている黒い猫耳のついた髪飾り、それに手足には見受けられる猫の手のようなグローブとブーツが、彼女の可愛らしさに拍車をかけている。
むう、生まれついての偶像なのか、その威光を感じてしまうっ!
「あ~ら、誰かと思ったヘスティアじゃん。まだいたのぉ……つーか、あの梨だけど、クソ不味いからもう持って来なくてもいいわよ。」
「キ、キイイッ! 不味いですって! あんなに美味しいモノを……食べモノの恨みは怖いってことを教えてあげましょうか?」
「わ、目が合った途端、口論に……や、やめいっ!」
うーん、仲が良いのか、それとも悪いのか……。
とにかく、ウェスタさんとヘラさんは口論を始める。
「ん、ヘスティア?」
「ウェスタの本名よ。」
「あ、ああ、なるほど、なるほど!」
「むう、その名前で私を呼ばないでくれるかな、かな?」
「は、はい、ヘス……ウェスタさん!」
「ねえ、どうでもいいけど、そこの一人二役って感じの芸風を得意としているお笑い芸人みたいなコがいるけど、もしかして……というか間違いなくアフロディーテでしょう?」
「ビンゴッ! 姿は違えど、この私の存在にすぐに気づくとは、流石はヘラさんだわ!」
私、アフロディーテさん、沙羅さんは合体し、身体がひとつになっている状態とはいえ、人格は別々に存在しているので、そんな私――いやいや、私達を見ると、一人二役という芸風を得意とするお笑い芸人に見えても、ある意味で当然よね。
だけど、そんな中、一発で――見ただけでアフロディーテさんだって見分けるヘラさんの見識力は侮れないわね。
「フン、どんなに姿を変えても〝アヒル〟だってことくらいはわかるわ。」
「わ、私はアヒルじゃない……白鳥よ!」
「どう見てもアヒルじゃん……。」
「うん、アヒルだね。あっちゃんは……。」
「太っちょのアヒルじゃのう……。」
「それは否定できませんねぇ……、」
「食べたら美味しそうなアヒルに間違いないね、ジュルリ……。」
「ちょっと、アンタ達まで、私のことをアヒルだって言うの! ヒッ……私は食べ物じゃないわよ、アタランテ!」
今は私と合体しているけど、アフロディーテさんはアヒルだ。
絶対に白鳥じゃない……うん、間違いない!
「ところでアンタ達ってヤスとかいう兎獣人に頼まれて、私をここから追い出そうとしているんでしょう?」
「そ、それは……。」
「フン、否定しないのね、アフロディーテ。さて、真の姿を久々に久し振りに見せてもらうわよ。」
「真の姿⁉ う、ヘラさんの右手の人差し指が、私を指さしているわね。」
「う、アレは……愛梨さん、避けてっ!」
「ウェスタさん、避けろって一体……わ、わあああっ!」
真の姿を見せろだって⁉
そう言いながらヘラさんは、右手の猫の手のようなグローブを脱ぐと、スゥ――と、白くて細い右手の人差し指を私に向けてくるのだった。
な、なんで指差されているんだろう――と、思った刹那、私を指差すヘラさんの右手の人差し指の指先から、まるで凍てつく北風のように冷たい波動のようなモノが、私を標的にするかの如く放たれる!
「わあ、愛梨さん、分離しちゃってます!」
「ぶ、分離⁉ わ、わお、アフロディーテさんと沙羅さんが、私の足許に!」
ちょ、何が起きたワケ⁉
ひょっとして合体の強制解除ってヤツですかー!
と、とにかく、私の足許には、合体が強制解除されてしまったがために分離した一羽の太っちょな赤いマフラーを首に巻いたアヒルと首からゴーグルをぶら下げている一羽の真っ黒な烏――アフロディーテさんと沙羅さんの姿が見受けられる。
「駄姉は必殺技を含めると、百八の技と魔術を使いこなす手練れよ。ちなみに、アレは合体強制解除波ね。」
「そ、そのまんまの技名じゃないですか、ウェスタさん!」
むう、そのまんまの意味の技を食らったワケね。
しかし、必殺技を含む百八の技と魔術を使いこなすヘラさんは、偶像を自称しているだけの存在じゃないみたいね……あ、侮りがたい手練れだわ!




