EP5 俺、ゾンビを使い魔にします。その5
兎天原に住む大型の虎、獅子、豹といった肉食獣型獣人は、暴力的な輩が多いって聞く。
それに〝人間〟に対し、深い恨みを持っているモノもいるとか――。
過去に人間と獣人族の種族間での諍いがあったっぽいけど、俺はその詳細を知らない。
だけど、恐らくマーテル王国絡みだろうな。
兎天原は七対三の割合で獣人達の方が多く住んでいるが、彼らを実質上、支配しているのは、三割ほどしかいない人間の国家であるマーテル王国だしね。
さて。
「ふう、なんだかんだと元気そうじゃん……ホッとしたよ。」
「ホッとするなってヤツです! 私の首の骨は、アンタに殴られたことで折れているっぽいんです!」
「ほう、それは悪かったな!」
「ちょ、旦那! 首の骨……頸椎が折れた状態なら、あの女はあんなに元気でいられるワケがないですって! 普通なら死んでるはずです!」
「な、なんだとー!」
「そんなワケです。虎さん、あんたのせいで私は一度、死んで……ゾンビとして蘇ったのです!」
「「な、なんだってー!」」
ハハハ、流石に驚いているな。
目の前にいるのは、一見、無傷な状態に見えるけど、頸椎が折れた状態でも平気でいられる不死者――ゾンビなんだぜ!
「ゾンビだぁ? ハハハ、嘘だろう?」
と、なんだかんだとメリッサは、身体のあっちこっちが腐敗していたり、そんな身体の一部が白骨化していたりする禍々しいゾンビのイメージとはかけ離れた生前の姿を保ったままだからなぁ、信じられないのも無理な話だと思う。
「アイツら、信じてないな。」
「私だって信じられないです。自分がゾンビだってことが……。」
「うーむ、なんだかんだと、俺がぶん殴っても死ななかったんだから、それでいいだろう?」
「いや、マジでメリッサは死んでゾンビとして蘇ったんだが……。」
「じゃあ、俺が試してやんよ! ちと気になることがあってな……おらあああっ!」
「わ、わああ、ナイフがお腹に刺さったぁ……って、ありゃ!」
狐獣人のコタロウがシャッと素早く近寄り、ズブリと隠し持っていた短剣でメリッサの右の脇腹を刺す!
でも、刺されたメリッサは、まるで何事もなかったかのように平然としている。
流石はゾンビ、痛覚が麻痺している証拠ってところだな。
「うう、いきなり刺すなんて酷いです! でも、平気な私って一体……。」
「ハハハ、そりゃゾンビだし……。」
「や、やはりか! 俺の嫌な予想がビンゴだったぜ!」
「おい、コタロウ! どういうことだよ!」
「あの女の言う通りか試したまでですよ。」
「だ、だからって刺すこたぁ……。」
「でも、マジでゾンビかもしれないぜ、アイツ!」
「お、おう、そりゃわかるさ。短剣で刺されても平気そうだしな。」
コタロウは試したようだ。
メリッサが本当にゾンビかどうか――。
だが、いきなり刺すのはどうかと思うんだが……。
「よ、よし、これで腹の傷は治ったぞ。」
「わあ、お腹の傷が治りました! ありがとうございます!」
俺はカードデッキの中から、<修復>のカードを取り出す。
とまあ、そんな<修復>のカードから緑色の光が飛び出し、メリッサの身体を包み込む――お、メリッサの右の脇腹に見受けられる痛々しい刺し傷が消えている。




