外伝EP03 アヒル女神と眼鏡少女 その35
後日、私はヒュドラス教徒達が、古代において主神ヒュドラスの巨神像を建造し、アルベガジ葬祭殿の奥に隠した――と、そう記された古文書を読むのだった。
しかし、遥かなる古代の話なので、その詳細を知るモノは当然いるワケがなく所謂、神話の中の出来事ってことで済まされていたようだ。
しかし、紛れもない事実であった!
「わあ、見晴らしが最高ね、愛梨。」
「う、うん、そうだね……。」
アフロディーテさんの言う通りである。
確かに見晴らしは最高だ。
しかし、私は思わずゾッとする……。
何せ、アルベガジ葬祭殿の深奥に格納されていた状態から地上へと、その雄々しき巨大な姿を現したヒュドラスの巨神像の身長は、なんだかんだと、百メートルは確実にあるワケで……。
「愛梨、ひょっとして高所恐怖症なの?」
「う、うん……。」
「アハハハ、馬鹿ねぇ。そんな細かいことに恐れを抱くとか――。」
「こ、細かいで済ませられないわっ!」
こ、細かいことで済ませることができるかっ!
私はなんだかんだと、高所恐怖症である。
ここから地上の様子を見るだけで、全身に鳥肌が……寒気が……あ、あああ、寒気がァァァ~~~!
「フヒヒヒッ……これが俺の奥の手よ!」
「お、奥の手!? このヒュドラスの巨神像を使った何をする気なのよ、ボリス!」
ヒュドラスの巨神像は、ウホッ! イイ少年――と、そう思わず言いたくなるような紅顔の美少年という真の姿を〝醜い〟と自重するボリスにとっては奥の手のようだけど、奴め……何を企んでいるんだろう。
「まさか、この巨神像は動くんじゃ……。」
「フッ……そのまさかよ! ヒュドラスの巨神像は動く巨神像よ! 俺はコイツを使って兎天原全体をメチャクチャにしてやる!」
「ふ、ふえ、なんてことを!」
「つーか、ヒュドラス教の開祖である母なる猛虎を死霊使いであるキョウ様やフィンネアさんを利用して蘇らそうと目論んでなかったか、コイツ?」
「う、うん、そういえば、そうだね……。」
「なんだかんだと、それが無理だと知って自棄を起こしたんだろうけど、ここまでやっちゃうと止めなきゃいけないよ、絶対!」
へえ、ヒュドラスの巨神像は動くんだぁ!
ひょっとして巨大ロボットみたいな?
それはともかく、ボリスはヒュドラス教の開祖である母なる猛虎を蘇らせることができないと知って自棄を起こしたのはわかるけど、兎天原全土を巻き込むような暴挙に出たのは許されざるって感じだ。




