外伝EP02 歌姫×歌女神 その16
「あの女は……私に大事なモノを奪ったんです!」
「は、はあ……。」
「だから泣いて謝るまでぶん殴ってやりたい気分なんです!」
「そ、そうか……って、八つ当たりをするな!」
怒髪天を衝く——と、まさにそんな感じの激しい怒りを感情が、中フレイヤの美貌をおぞましい般若の形相に豹変させる。
オマケに長く美しい黄金色の髪の毛が、ウネウネと蠢く蛸の八本足のように蠢いている……わあああ、俺の首に巻きついてきた!
「お、落ち着け!」
「そんな時は……こうよ!」
「フ、フガッ……んんん、甘くて美味しいです♪」
「ふ、ふう、落ち着いたな。しかし、クッキーを口の中に放り込んだだけで一瞬で大人しくなるとは!」
「『怒り狂うモノに食べ物を与えよ。それが荒んだ心を穏やかな心へと変える行為となる!』って感じの先祖伝来の教えがあったね。」
「は、はあ……。」
うーん、小フレイヤにとって先祖伝来の教えってワケねぇ……。
ま、まあ、効果があったことだし、間違った教えではない——と、一応、信じておこう。
ああ、そういえば、中フレイヤは見た目は若いが小フレイヤの先祖だったな。
無論、大フレイヤとも——。
「と、ところでアイツとは、どんな因縁があるワケ?」
「俺も知りたいぞ!」
さてと、なんだかんだと、大フレイヤとの間に、どんな因縁があるのか——と、そのことを中フレイヤに訊いてみなくちゃいけないな。
「あの女は、私なら三つ大事なモノを奪ったのです。」
「み、三つも?」
「へえ、聞かせてもらいたいわね。子孫的には超気になるんですけど!」
「じゃあ、語ろうかしら。まずひとつは猫の戦車。」
「あ、ああ、アレね。やっぱり、アレは元は中フレイヤさんの所有物だったのね。」
「はい、あのデカい猫ちゃんは大フレイヤさんの飼い猫ですが、戦車は私の宝物庫の中にあったモノのひとつですけどね。」
大フレイヤは中フレイヤが大事にしていたモノを三つ奪ったという。
そのひとつは、やっぱり、あのデカい猫が引く戦車だったか……。
ああ、でも、戦車を引くデカい猫は、元から大フレイヤの飼い猫のようだ。
「あの猫はトールって名前らしいわよ。わ、アナタは!」
「あ、フレイ! ちょ、なんで私の後ろに隠れるワケ?」
「当然です。そのコとコンビを組んで、私の宝物庫を荒らしたのですか——。」
「ふ、ふええ、荒らしたんじゃない! 『双六で私を打ち負かせたらハイウェイア城の宝物庫内にあるモノを好きなだけ持ち帰ってイイわよ!』……と、そんな口約束を!」
熊のぬいぐるみを抱いた小柄な金髪碧眼の人間の少女がやって来る。
エフェポスの村の村長であるフレイだ——え、大フレイヤと一緒になって中フレイヤが大事にしていたモノを三つ奪った共犯者なワケ?
だけど、双六で買った場合、好きなモノを中フレイヤの居城であるハイウェイア城の宝物庫内から好きなだけ持って帰ってもいい——とまあ、そんな口約束をしていたワケだし、そこら辺を考えると大フレイヤとフレイの行為は妥当なモノでは!?
「ううう、とにかく、アナタ達は私が特に大事にしているモノを持ち出した! 故に、取り返しに来たのよ!」
と、特に大事なモノねぇ……。
さてと、残りふたつの大事なモノとは、一体、どんなモノなのか気になるぜ。




