外伝EP02 歌姫×歌女神 その4
「あ、大フレイヤがいなくなっている!」
「中フレイヤさんの記憶が戻ると、何か都合が悪いことが起きるのかしら?」
「きっとそうよ。だから逃げたのよ、アイツ……。」
気づけば、大フレイヤの姿が、フッと消えてなくなっている。
さっきまで、俺の背後にいた筈なんだが……逃げたな、アイツ。
一時的なのかは知らないが、現在、記憶喪失気味の中フレイヤが、大フレイヤ的に思い出してしまっては、いささか不味い何かがあるに違いないが、一体、どんなことなんだろう?
物凄く気になるぞ。
俺としては、さっさと思い出してほしいなぁ……。
ま、そんなワケで中フレイヤをエフェポスの村、唯一の病院へと連れくるのだった。
「軽い脳震盪によって引き起こされた一時的な記憶喪失ですね。」
「はあ、やっぱり、そんな感じでしたか……。」
「はい、そんなワケで時期に思い出してくる筈ですよ。」
「うーん、だといいのですが、さっぱり思い出す気配がないですね……。」
さてと、看護婦はともかく、エフェポスの村、唯一の病院に勤務する唯一の医師である喋る大蛇――いやいや、アスクレピオス先生が中フレイヤを診察したところ案の定、愛馬のスレイプニルの背中から落っこちた際、運悪く後頭部を強打したことによって引き起こされた脳震盪が原因で一時的に記憶喪失になってしまったようだ。
「あ、ひとつだけ思い出しました。何故、あんな大金を持ってきたいたのかって理由ですが――。」
「ほう、あの大金について気になっていたんだ。是非とも理由が知りたいもんだ。」
「それじゃ、語りますね。あの大金はソドゴラの町で稼いだモノです。歌姫として、そして賭博で……。」
「歌姫!? へえ、お姉さんは歌姫なんだ。私も歌声には自信があるわよ。」
「さて、ソドゴラか……なるほどね。あそこなら、何年も遊んで暮らせるような多額の金銭を〝運が良ければ〟一夜にして得ることができるな。」
「な、なんだって! そんな夢が叶う可能性がある賭博場のような場合があるのか!?」
「うむ、ここからだと、南方に徒歩だと、約二日ほどかかるけど、そんな場所にあるわよ。町全体が歓楽街になっているソドゴラという町がね。んで、兎天原で唯一、余が認めた公営賭博場でもある。」
なんと、そんな場所が!
き、気になるぞ……というか、灯台もと暗しだ。
オリン山、それにポース山といった聖地に指定されている禁足の地以外なら、兎天原の全域を獣人飛行隊の仲間達と一緒に見聞して回ったつもりだったのに……。




