外伝EP02 歌姫×歌女神 その3
「ウイーッス! みんな何やってんの? うわあ、ソイツは!」
「あ、大フレイヤ……ん、知り合いなの?」
「知らないよ! だ、誰だろうなぁ~。」
「「…………。」」
「ジ、ジト目で見るな! マ、マジで知らないよ、うんうん!」
ん、右手に赤ワインの入った瓶を握る少々、酔いどれ気味の長身でスタイル抜群の金髪碧眼の美女がやって来る――大フレイヤだ。
と、そんな大フレイヤは、寝ボケているのか、それとも記憶喪失なのか?
とにかく、そこらへんがはっきりしない中フレイヤの姿を見た途端、ヒイイッ――と、喉の奥で悲鳴をあげ、狼狽し始める。
なんだかんだと、知り合いなのか――が、大フレイヤは激しく首を横に振りながら、関係を完全否定する。
あ、怪しい、実に怪しい……あからさまに何かしらの隠し事をしていることバレバレの仕草だ。
「みゅっ!」
「ひ、ひいぃ!」
ドギャーッ――と、中フレイヤと視線が合った途端、大フレイヤは勢いよく物陰に身を潜める。
ハハハ……ありゃ、過去に絶対、何かしらの因縁があった感じだな。
「あ、あのぉ、そこのおっぱいの大きなお姉さん……。」
「わ、お前、どこ見てんだ!」
「あ、気に触りました? その前に、お姉さんの顔、どこかで……うう、思い出せませんねぇ。」
「うむ、思い出せないなら、それでいいじゃん!」
「ですね。思い出せないってことは大したことじゃないと思いますしね。」
「うんうん、そうだ。その通りだよ、君ィィィ~~~!」
大フレイヤは都合がいいなぁ……。
しかし、中フレイヤとの間に、一体、何があったのやら……。
「頭を強打したことのよって記憶喪失になってしまったっぽいわね。あの調子だと……。」
「フ、フレイヤ様が記憶喪失ですって! やはり落馬した時に……。」
「なあ、喋るお馬さん。なんかんだと、アンタの主なんだろう? 故に、何故、エフェポスの村の近くにいたのか知っているんじゃないのか?」
そうだそうだ、中フレイヤの愛馬である喋る馬――スレイプニルなら、何か知っているかもしれないな。
「ん、知りませんなぁ。何分、フレイヤ様は秘密主義でして……。」
「ちょ、即答かよ!」
うーむ、スレイプニルは何も知らないようだ。
そんなこんなで何が目的でエフェポスの村に近くにいたのかってことは、中フレイヤが自然に思い出すのを待たなくちゃいけないのかもしれない。
「強制的に思い出させるって手もあるわよ。」
「そ、それはやめろ! 永遠の忘れいる方が幸せなこともあるんだからさぁ!」
「おいおい、思い出されちゃ不味いことでもあるのかよ?」
「だーっ! しつこいぞ。とにかく、余計なことをすんなーってヤツさ!」
むう、大フレイヤの奴、何をそんなに焦っているんだ?
「あ、少しだけ思い出した……。」
「ビ、ビクッ!」
「私は何かを探していた気がする。だけど、それが思い出せないのが辛いわね。」
え、何かを探していた?
ふむ、その何かが大フレイヤとの因縁になっているのかもしれない……って、おいおい、大フレイヤの顔色が真っ青なんだが――。




