外伝EP01 大空の兎 その37
世界魔物辞典――小フレイヤの愛読書らしいけど、その本に載っていたんだろうか?
変幻自在の禍々しい真っ黒な粘液状の生物ショゴスの弱点が――。
まあ、とにかく、今はコイツを――ドロドロした真っ黒な粘液を滴らせる飛竜の姿に変化したショゴスを竜哭山の火口に引きつけなくちゃいけない!
「こっちだ、こっち! さあ、来い……化け物っ!」
「カモーン、わしはこっちだぁー! この汚物野郎!」
俺とレイナはドラゴンショゴスに対し、挑発的な言葉を言い放つ。
「テケリテケリ、テケリッ! テケリィィィ~~~!」
「う、俺達の言葉をちゃ~んと理解してやがるな。」
お、おお、上手く挑発に乗ったぞ!
ショゴスは巨大なアメーバのような原始的な生物に見えなくもない姿ではあるが、それに反し、知能が高い生物だ。
当然、俺やレイナが自分を馬鹿にしていることを理解できる知能を持ち合わせている。
あ、ああ、そういえば、バルロスの塔で遭遇した時は、生死不明の元主こと魔術師ギムルに化けていたな。
で、今は無き竜騎士団にのみ伝わっていた秘密の言葉を口走り、バルロスの塔の先端――岩のチューリップこと竜騎士の墓に鎮座していた飛竜像の額に埋め込まれていた記憶石を取り外したワケだし……。
なんだかんだと、侮ってはいけない生物なんだよぁ。
『ヤマダ、ショゴスは誘導しながら、アンタも火口に突っ込むのよ! そして“あの機能〟を――。』
「お、おい、あの機能を使う前に俺が溶けてしまう!」
『安心しろ、ヤマダ! お前が融合合体した玩具のゼロ戦は、摂氏千二百度の高熱にまでなら耐えられるように魔術で耐性が施されているぞ!』
「え、本当に!? だけど、トンでもない勇気がいるぞ! だが、俺は特攻隊の一員だったんだ……そのことを思い出せ、俺!」
そうだ、俺は特攻隊員だったんだ!
お国のため、この命を投げ出す覚悟を決めた男だ!
そのことを忘れちゃいけない……故に、俺なら竜哭山の格好に突っ込むくらいの朝飯前である!
「う、うおおおおーっ! こっちだぁ、化け物ォォォ~~~!」
「ヤ、ヤマダ!」
「レイナ、お前は来るな……俺は“すぐに戻る〟! だから、お前は仲間の飛竜と一緒に火口の上空で攻撃準備を――。」
一緒に来るつもりだったレイナに対し、『来るな』と言うと、俺は意を決し、ショゴスを誘導するかたちで竜哭山の火口へと飛び込むのだった!




