外伝EP01 大空の兎 その27
「ゼフ殿ォォォ~~~!」
「む、アルジュナか! お前も無事だったんだな!」
「は、はい、私はこの通り、五体満足です! ですが、私は以外の竜騎士は……。」
「……そうか、だが、お前だけでも無事で良かった。」
ん、竜騎士がもうひとりやって来る。
小柄な少年だ……ひょっとして新人竜騎士?
「ゼフ殿、記憶石を無事に回収できたみたいですね!」
「ああ、だが、どこへコイツを隠すかが問題だ。とりあえず、コイツに我々、竜騎士団の壊滅の記録をしておいた。」
「ひゃあ、隠す場所が問題ですよね。どこがいいでしょう……。」
「そうだな、竜騎士の墓……バルロスの塔に隠そう。ここから遠く離れているし、隠すには絶好の場所だしな!」
「竜騎士の墓……バルロスの塔?」
「そういえば、お前はまだ言ったことがないんだった。あそこが歴代の竜騎士団の団長が眠る場所でな……むう、その話は後だ! 妙な気配を感じる!」
「て、敵ですかぁ、ゼフ殿ォ!」
「妙な気配? 俺達の気配?」
「馬鹿、そんなワケがないだろう? 忘れたのか、ヤマダ。私達は記憶石に残された過去の映像を見ている傍観者だってことを――。」
「あ、ああ、そうだったなぁ……。」
ふ、ふう、妙な気配を感じる――と、ゼフという竜騎士が言うもんだから、ひょっとして俺達の気配を気取られたのかと思ったぜ。
アハハ、そんなワケがないよなぁ、俺達は記憶石に残る過去の記録映像を傍観しているモノなワケだし……おっと、そんなことよりアルジュナという新人竜騎士に続くかたちで宝物庫に何者かがやって来たぞ。
「キヒ、キヒ、キヒヒヒ……その石を渡してもらおうか――。」¥
「な、なんだ、貴様は!」
「待て、アルジュナ! コイツは……コイツが仲間達を皆殺しにしたモノだ!」
「な、なんですってー! むうう、コイツはムザムザと引き下がることができない展開ですぞォォォ~~~!」
「どうでもいいけど、アイツ……魔術師ギムルじゃん!」
「黒々とした粘液状の禍々しい生物ショゴスが化けていた奴だな。」
「どれくらい前の出来事かは知らんけど、あの怪物が竜騎士団壊滅に一枚、絡んでいたのかー!」
う、あの魔術師ギムルが現れる。
俺達が見ている光景は、すでに過ぎ去った過去の出来事ではあるが、まさかアイツの姿を再び見ることになるとはねぇ……。
「ん、もしかすると、アレが本物の魔術師ギムルじゃないのか?」
「ウクヨミ、それはどういう……。」
「足許も見ろよ。ほら、黒々とした粘液状の生き物が蠢いているだろう?」
「あ、ああ、なるほどね!」
「この映像は最低でも五十年は前のモノよ。故に、故人となっている可能性がある魔術師ギムルの名を名乗った愛玩動物のショゴスが、バルロスの塔で遭遇したモノなんじゃないか――と、私は予想してみた!」
「ううむ……。」
「なんのことだか、俺にはさっぱりだが、黒々とした粘液状の化け物が、ゼフって竜騎士を攻撃したぞ!」
と、イシュタルのそんな予想は間違ってはいない気がする。
おっと、その話は後回しだ。
攻撃の合図とばかりに、骨と皮だけの痩せこけた血行の悪い土気色の肌が、ある意味で特徴的かもしれない右手をギムルが頭上にスゥと掲げた刹那、足許にいるショゴスの真っ黒な粘液状の身体から何本も飛び出している先端が鋭い鎌のような形状となった触手が、ドギャアアアッ――と、一斉に竜騎士ゼフに対し、襲いかかる!




