外伝EP01 大空の兎 その23
エフェポスの村はケモニア大陸のど真ん中にある兎天原という地域の中でも、特に辺境という言葉がよく似合うそんな村だ。
従って、ここはド田舎と言っても間違ってはいないだろう。
そのせいか開拓が思うように進んでいない人跡未踏とまではいかないけど、下手に入り込むと抜け出すことが至難の業となる迷宮のような深い森に囲まれている。
さて、そんな環境にあるせいかエフェポスの村の周辺には、古代遺跡が数多存在する。
そういえば、ウサウサ文明とやらが、かつて兎天原に存在したんだったな。
と、そんなウサウサ文明の遺跡かもしれない古代遺跡の他にも、例えば、兎天原で信仰の発祥だと言われる一神教のラーティアナ教絡みの宗教遺跡などが代表的だろう。
「兎竜の祭壇へ行く前に、ちと準備がある。それまで自由を許そう。」
「ぬう、まるで部下に言う台詞みたいだ。」
「何を言っている、ヤマダ。お前はすでに私と同じウミコ様の近侍扱いだ。」
「おいおい、勝手に決めるなよぉ……ったく!」
近侍……俺はいつの間にウミコの側近のひとりになったんだぁ?
勝手だな、まったく……。
とまあ、それはともかく、ウミコは何かしらの準備があると言い出し、一際大きな高床式の自身の家の中へと駆け込む。
「お、ヤマダじゃん。いつ戻ったんだ?」
「あ、ガスマスクをかぶった怪人がいるわよ!」
「大フレイヤ、小フレイヤ!」
「怪人ですって⁉ 私のどこが怪人だというのかな、かな?」
「うーん、どこからどう見ても……。」
「フン、このガスマスクの良さがわからないみたいね。」
「何がイイのか、それがさっぱりだ……。」
「む、むう……っと、ガスマスクの話はともかく、イイ機会だし、この記憶石に記録された竜騎士団の活動記録等をアンタ達も一緒に見てみない?」
俺達の帰還に気づいた大フレイヤと小フレイヤがやって来る。
さて、イシュタルから、そんな誘いを受ける……もちろんだ!
記憶石とやらに記憶された竜騎士団とやらの活動記録などには興味があるしね。
しかし、イシュタルはどうやって、あの左手に握っている星型の青い石から、竜騎士団の活動記録等の引き出す気なんだろう……。
「読み取りヘルメット!」
「アンテナのついた鉄のヘルメット……って、そのままかぁー!」
「うん、そのまんまね。何か問題でも?」
「む、むう、しかもたくさん用意してある!」
おいおい、そのまんまの名前がついた道具をしかも大量に用意しているぞ、イシュタルは……。
そういえば、大フレイヤと小フレイヤ、ついでに村の用心棒のメイヴってライオンなんかも近くにいるし、コイツらにも竜騎士団の活動記録等を見せようって魂胆なのか?
ま、まあいい、アンテナのついたヘルメットをかぶってみよう。
「お、耳が出るようになっているな。」
「うむ、かぶってみたぞ。だが、何も起きないな。」
「フフフ、当然よ。まだスイッチをONにしていないしね。んじゃ、早速……ポチッとな!」
「ん、スイッチ? その小さなボタンのついた箱が……うぐああああっ!」
イシュタルの右手には、小さな赤いボタンのついた箱が握られている。
で、彼女がそんな小さな赤いボタンを押すと同時に、左手に握っている青い星型の石――記憶石が、カッと思わず瞼を閉じてしまうほどの激しい光を放つのだった。




