外伝EP01 大空の兎 その19
「氷の神霊よ! 黒き邪な怪物を溶けぬ氷の棺に閉じ込めよ!」
「我、氷の魔竜よ、我が愛刀より放つ!」
さらに巨大化するウミコの周囲に浮かぶ氷の塊、ウクヨミが両手正眼に身構える刀身で覆われた太刀から放たれた氷のドラゴンのかたちをした波動が、周囲を凍結させながら、ショゴスに向かって飛来する!
「テ、テケリ、テケリリリ!」
「『無駄だ、効くかよ、クソ共がぁ!』って言ってるぞ!」
「ヤ、ヤマダ、あの怪物の言葉もわかるのか!」
「あ、ああ、そう聞こえるからなぁ……。」
俺の耳はおかしいのか?
あのショゴスとかいう化け物の鳴き声から、奴が何を言っているのかがわかってしまう!
「ギ、ギギギーッ! テケリ、テケリィィィ~~~!」
「おお、命中! ショゴスが凍った!」
「『な、なんだと! このショゴスが、このショゴスがァァァ~~~!』って呻いている!」
「やった! やったぞー!」
「だけど、一時的の行動不能にした程度だと思いますよ、ウミコ様。」
「ああ、ショゴスは最強の粘液状生物と呼ばれていますし、本領発揮する前に動きを封じられたのが幸いですし……。」
むう、なんだかんだと、一時的に行動不能にした程度か……ショゴス恐るべし!
「記憶石を取り出すなら今のうちかも! イシュタルハンマー!」
むう、凍りついて活動停止状態にショゴスの禍々しい粘液状の身体に、今のうちだ――と、イシュタルが五寸釘を愛用の金槌で打ち込むのだった。
「よし、ショゴスの身体の一部が砕けたわ! おお、記憶石が発見!
「イシュタル女史、回収しましたよ!」
む、イシュタルが凍結したショゴスの身体に五寸釘を愛用の金槌で打ち込む瞬間、一瞬だけど、ガスマスクをかぶった怪人というそんなイシュタルの身体が金色に輝いた気がする。
それはともかく、凍結したショゴスの身体の一部が砕け、そこから奴がその身に取り込んだ記憶石が、ポロリと地面に転げ落ちてくる。
「さて、なんだかんだと、ここから脱出するぞ!」
「さっきの広場に戻りますか、ウミコ様?」
「いや、階段で下へ降りた方が無難じゃ。あの蛇型飛竜がうろちょろしているはずだしな。」
「う、その前に兎獣人の姿に戻ってないか?」
再び玩具のゼロ戦と融合合体する手もあるが、あの蛇型飛竜のことを思い出すと、ウミコの言う通り階段を使って地上から外に出た方が無難かもしれないな。
「ハハハハ、人化の法には何かと制限があってなぁ。」
「今の段階では長く持って数分ですね、ウミコ様。」
「うむ、わらわ達はともかく、ハニエルやヤスなどは、ほんの数秒で兎獣人の姿に戻ってしまったぞ。」
「は、はあ……。」
「ア、アンタ達! ショゴスが動き出したわ! さっさと逃げるわよ!」
「階段はこっちだ、さあ、早く!」
む、記憶石を凍結したショゴスの身体の中から取り出して間もなくである。
グゴゴゴッ――と、そんな凍結した筈のショゴスの禍々しい川底に溜まる真っ黒なヘドロのような粘液状の身体が動き出す!
コ、コイツ、粘液状の身体の中で熱を――と、とにかく、今は逃げろ!




