外伝EP01 大空の兎 その18
「かくなるうえはっ……ウクヨミ、人化の法で戦闘力を向上させるのじゃ!」
「了解です、ウミコ様!」
「じ、人化の法⁉」
「ヤマダさんだっけ? 人化の法は人間に変身できる秘術よ。ま、獣人族によっては攻撃力が下がるから、ある意味で必要がないモノだけど、術者が獣人族の中でも一、二を争う最弱種の兎獣人なら攻撃力が、恐らく大幅に向上するわね。」
「は、はあ……って、ウミコとウクヨミが人間の姿に⁉」
真っ黒なヘドロのような禍々しい粘液状の生物――ショゴスと戦うための策とばかりにウミコとウクヨミの姿が、軽い爆発音とともに小さな兎獣人の姿から人間のモノに変身する。
「ウクヨミ、お前、女だったのか! ふむ、静御前……白拍子みたいだな。」
「ヤマダ、私がオスの兎獣人だと思っていたのか?」
「うむ、なんというか、見分けがつかなくて……。」
「なんだと! 兎獣人の時も十分すぎるほど可愛い姿だろう? それなのに何故、気がつかない!」
「ハハハ、そんなことより、今のわらわ達の姿をみてどう思う?」
「す、凄く美しいです!」
さてと、ウミコはともかく、ウクヨミもメスの兎獣人だったとは意外だ。
まあ、元が人間と違って全身をモフモフとした毛皮に覆われている兎獣人というワケだし、オスかメスかの判別が何かと難しいかもしれないなぁ。
ちなみに、ウミコは白い衣と赤い袴という俺が本来いるべき世界の故郷――日本の神社にいる巫女の格好をした長い黒髪の美女の姿に変身する。
一方でウクヨミの人間に変身した姿は、狩衣と烏帽子という兎獣人の時のまんまの格好なので、その姿は男装をして朗詠を歌いながら舞う白拍子という芸人を連想させる。
「ウミコが三十路くらいで、ウクヨミが十七、八歳くらいか……。」
「おい、ヤマダ! わらわはもっと若いぞ!」
「え、ウミコ様はなんだかんだと、百歳近かったような……ぐげぇ!」
「だあああ、余計なことを言うでない! さて、人間の姿に変身したことだし、兎魔術の威力もあがっているはずじゃ……よし、奴をここで活動停止状態にしてやろう!」
人間の姿になったことで兎魔術とやらの威力もあがっているねぇ……。
何はともあれ、ウミコとウクヨミが禍々しい怪物ショゴスに立ち向かっていく!
「ウクヨミ、氷霊符を使う……〝アレ〟を仕掛けるぞ!」
「では、私は氷竜剣を!」
「お、おい、なんだ、それは!? うう、急に寒くなったぜ!」
アレとは、一体!?
ん、バキバキという音とともに、ウミコの周りに氷の塊が出現する。
一方でウクヨミは、刀身が氷で覆われた太刀を両手に握り正眼に身構えている。
とまあ、そんなモノが出現したせいか、俺の周囲の気温が急激に低下する……うう、寒い! ここだけ、まるで冬のようだ!
「どの程度、効き目かはわからぬが、あの禍々しい真っ黒な化け物を……ショゴスを凍らせてみる!」
「凍らすのか⁉ ま、まあ、なんとなくわかったが……って、それも兎魔術のひとつなのか?」
「ま、そんなところじゃのう。では、やるぞ、ウクヨミ!」
「はーい、ウミコ様! やっちゃいましょうーっ!」
ウミコとウクヨミはショゴスを凍らせる気だ。
あの手のドロドロした粘液状の化け物なら、上手く凍らせることができれば活動停止に追い込めるだろう。
ん、燃やすという手もあるかな?
が、あのショゴスって怪物に効果があるかが心配だ。




