外伝EP01 大空の兎 その16
「兎ちゃん、それは小型の火縄銃⁉ いや、違う……だが、そんなモノで威嚇したところでは、ボクの詠唱を止めることはできん!」
「く、このっ!」
「ぐ、ぐあっ! ハ、ハハハ、なんだかんだと、兎獣人専用の武器じゃ、人間であるボクを再起不能にすることはできないィィィ~~~! フングルン、ムグルフウナ、イヤイヤナミオナコタマサヒラサ!」
く、愛用の南部十四年式拳銃の銃口から放たれた弾丸は、ギムルの身体をかすめ飛竜に像に直撃する!
だが、そんな威嚇にはまったく動じないギムルは、不思議な言葉を――どこで聞き知ったのかはわからないけど、とにかく竜騎士団に伝わる秘密の呪文を唱え始めるのだった。
「あ、飛竜の像の額に埋め込まれている記憶石が、ポロリと落下したわ! でも、何故……うりゃあああ!」
ギムルが竜騎士団に伝わる不思議な呪文を詠唱し終えると同時に、飛竜の像の額に埋め込まれた青い星型の石――記憶石が、ポロリと落下する……お、おお、イシュタルが右手でダイビングキャッチしたぞ!
「それはボクのモノだ!」
「アイターッ!」
が、それも束の間である。
グオオオッ――と、襲撃してきたギムルが振りおろす杖が、イシュタルに脳天を直撃する!
ああ、その際にイシュタルの右手から記憶石が、パーンッと勢いよく離れてしまう。
「フヒヒヒ、ついに手に入れたぞ! これさえあれば、ボクは……ボクは!」
「うう、それをどうする気! それは今じゃ伝説の戦闘集団と化してしまった竜騎士団の謎を解くために必要不可欠なモノよ、返しなさい!」
「は、誰か返すモノか! それにお前のモノでもないだろう!」
「む、むう、それはそうだけど……とにかく返せっ!」
イシュタルが手放してしまったせいで、記憶の石はギムルの手中に……や、奴め! 何にアレを使うのかは知らないけど、思わずゾッとしてしまいそうな狂気が彩った笑みを浮かべながら、俺達をジッと凝視している!
「フヒヒ、ここにはもう用はない!」
「逃げるのか、貴様! ヤマダ、奴を捕らえよ!」
「そうだ、奴を捕まえるんだ、ヤマダ!」
「おいおい、俺になんだかんだ言う前に、お得意の兎魔術とやらを使えよ!」
むう、攻撃を仕掛けてくるかも……そう思ったが、ギムルはスススッと後退する。
く、逃げる気だな!
ウミコとウクヨミは俺に頼りまくって何もする気がないし、仕方がない今度は威嚇ではなく本当に撃ってやる!
「まったく、頼りのない兎ちゃんね。こういう場合は……おらぁーっ!」
イシュタルが両手に鋸を携えてギムルに飛びかかる!
科学者であり、考古学者でもあるって言っていたので学者肌なガスマスクの怪人かと思ったが、意外にも勇猛果敢なのかも!
[ちょ、なんで鋸なんてモノを持っているんだ!」
「イシュタル女史は、他にも金槌や釘、それに螺子回しなども常に持っている。」
「え、そうなの? 大工かよ、アイツ!」
「うりゃああああっ! 四の五の言っていられるかァァァ~~~!」
「ガ、ガアアアッ!」
ザンッ――と、イシュタルが振り回す鋸がギムルに背中に直撃し、袈裟懸けに引き裂く!
「ヒ、ヒヒッ……その程度か……よ!」
「う、なんか変な感じ……血が出ていない⁉」
確かに変だ。
ギムルが不気味な笑みを浮かべている……へ、平気なのか⁉
背中を鋸で引き裂かれたのに、何事もなかったかのように、ピョンピョンと飛び跳ねて見せる……や、痩せ我慢をしているようには見えないし、なんだ、コイツは!




