外伝EP01 大空の兎 その15
なんだかんだと、猛獣界一広大な陸地を誇るケモニア大陸内には、俺――ヤマダシロウサヒコ(仮)が本来いるべき世界と同じく現在に繋がる文化の基礎となった古代文明が、いくつも栄えていたようだ。
さて、俺が今いるケモニア大陸のど真ん中のある区域こと兎天原では、兎獣人が築いた古代文明が存在していたとか――。
で、その名もウサウサ文明……おいおい、ふざけたネーミングだろう、これは!
と、それはともかく、そんなウサウサ文明が栄える以前、兎天原には別の高度な古代文明が存在していたことが最近になってわかったとか――。
それはさておき。
「ヤマダ、何故、竜語がわかる⁉ 考古学者である私でも解読不能なんだぞ!」
「わあ、耳を引っ張るな! 八つ当たりってヤツだし、オマケの動物虐待だ!」
「五月蠅い、なんだか悔しい気分なのよ、ムキキキーッ!」
イシュタルの奴、八つ当たりをしやがって……。
まあ、嫉妬心を抱くのも無理はないだろうなぁ、考古学に関してド素人である俺なんかが、飛竜の像の台座に刻まれた竜語を読むことができたワケだし――。
「どうでもいいが、秘密の呪文とやらは、台座に刻まれていたりするのか、ヤマダ?」
「いや、それらしきモノは刻まれていないな。」
「むう、今更、諦めるワケにはいなかないわね。うーん、困った、困った……。」
目の前にある飛竜の像の額に埋め込まれた青い星型の石――記憶石は、“秘密の呪文〟とやらを唱えなくちゃ取れない代物なのかもしれないなぁ。
だが、そんな秘密の呪文らしきモノは、飛竜の像の台座には刻まれておらず……さて、どうしたモノか。
「なるほど、秘密の呪文か、それを唱えればいいのかな? ボクにはわかるぞ、キヒヒヒ……。」
う、不気味な笑い声が聞こえてくる……だ、誰かやって来たぞ⁉
痩せこけた黒ずくめの若い男だ。
ん、右手にはドラゴンを模した杖を持っている……ま、まさか、コイツ⁉
「キヒヒヒ、その飛竜像の額に埋め込まれた青い星型の石を取る方法を教えてくれてありがとう。」
「な、なんだ、お前は!」
「ボクかい? ボクはギムル。飛竜を支配する魔術師だ!」
「うわ、やっぱりか! お前が一連の飛竜による襲撃事件の黒幕だな!」
「それに関してはイエスでありノーと言っておこう。アレは飛竜共が勝手にやったことだからね。」
「お、お前、すべての責任を飛竜共に押しつけるのか! なんて身勝手な奴!」
痩せこけた黒ずくめの男こと魔術師ギムルは、すべての責任を飛竜に押しつけるかのような言葉を言う……身勝手にも程があるぞ、コイツ!
そもそも、コイツが何かしらの魔術て竜哭山の飛竜達を洗脳し、操らなければ、一連の飛竜による襲撃は起きなかった筈なのに!
「キヒヒ、それじゃ、早速、ボクが知る竜騎士団に伝わる秘密の呪文を唱えさせてもらおうかな!」
「く、どんな呪文を知っているのかは知らんけど、邪魔させてもらうぜ!」
ギムルの奴が、どんな秘密の呪文を知っているのは知らないが、それを妨害してやる!
俺は咄嗟に、腰のホルスターから愛用の南部十四年式拳銃を引き抜くと、その銃口をギムルに向け銃爪を引く――威嚇というかたちで!




