EP4 俺、死霊魔術を使います。
頭の左右にアモン角と呼ばれる一対の渦巻き状の角が生えてはいるけど、白い鼬のぬいぐるみを抱いた小柄で可愛らしい金髪碧眼の少女であるフレイの特技は、意外にも狼の物真似である。
で、その愛らしい容姿とは、百八十度、裏腹な狼の物真似とばかりに、けたたましい遠吠えのような咆哮を張りあげ、フレイヤとフレイを追跡するかたちでアジトの中に不法侵入するふたりのネメシス騎士団団員ーーメイザースとメリッサを驚かし、見事、撃退することに成功する。
さて、アジトの外に悲鳴を張りあげながら逃げ出したネメシス騎士団の団員のおふたりさんのひとりであるメリッサが、再び悲鳴を張りあげる。
やれやれ、騒がしいな。
今度は何があったのやら……よし、様子を見に行ってみるかな。
「ん、この気配はっ……キョウ、今は外に出ちゃいけない!」
「え、外に出るなって?」
「ほらほら、乱暴な声が聞こえるだろう? この声は虎獣人のボリスって野郎の声でなぁ……。」
「そうっすね、兄貴。つーか、アイツと運悪く遭遇しちゃったっぽいっすね。ネメシス騎士団のおふたりさんは……。」
虎獣人のボリス? 兄貴とヤス曰く、面倒くさい輩ってところかな?
「ボリスはディアナスの森を拠点に活動する乱暴者っす。」
「無法者の仲間を引き連れて兎天原を荒らしまわっているって悪いウワサがあるくらいだ。」
「そ、そうなんだ。どこの世界にも必ずいるんだよなぁ、そういう輩が……。お、扉に小さな穴がある。外の様子を窺えるな。」
ま、何はともあれ、アジトの出入り口の扉には、十円玉ほどの大きさの小さな穴が複数、見受けられる。
兄貴かヤスが外の様子を窺うためにわざと開けた覗き穴なのか、それともアジト自体が廃墟を再利用したモノなのでぼろっちい故にできた破損個所なのか……。
「わお、虎人間がいる!」
「アイツが虎獣人のボリスだ。」
「てか、ボリスの野郎の足許に倒れているのは、メリッサって女だけっすね。」
「一緒にいた大男の姿が見受けられんな。」
「メイザースだっけ? アイツは逃げたんだろう、どうせ?」
アジトの出入り口の扉に見受けられる複数の覗き穴から、俺達は外の様子を窺う。
むう、身長三メートルはありそうな獣頭人身の生き物――虎獣人のボリスとかいう輩の雄々しい後姿と、その足許で仰向けに倒れているメリッサとかいう厚底眼鏡の女の姿が、俺の双眸に映り込む。




