外伝EP01 大空の兎 その6
エフェポスの村の古老のひとりであるウミコ様とやらは、翡翠の勾玉で彩られた美しい首飾りを身に着けた真っ黒な兎獣人である。
で、禍々しい邪神像に見えなくもない像が安置された祭壇に向かって、まるで踊っているかのように激しく動き回っている。
ひょっとして祈祷を行っているのか……。
うーん、アレじゃ何も聞けないなぁ……。
さて、そんなウミコ様とやらが必死(?)に祈祷を行っている祭壇がある部屋には、看護婦と思われる複数羽の兎獣人に包帯を巻かれるなどの手当てが行われている全身、血まみれの太った眼鏡をかけた人間の男が横たわっている。
とりあえず、死んではいないようだけど、瀕死の重傷を負っているので、いつ死んでもおかしくはない状態だろう。
「ウミコ様、フレイヤです。この男は一体……。」
「ウミコ様は祈祷の時間故に忙しい。私が代わりに話そう。」
「ん、ウクヨミか! じゃあ、頼むよ。」
狩衣に烏帽子……歴史の教科書に挿絵が載っていた平安時代の公家の男性の普段着だったか?
と、そんな格好をした兎獣人――ウクヨミが、祈祷で忙しいウミコに代わり、事の詳細について語り始める。
「その人間の男は、飛竜に襲われたようだ。」
「ふええ、やっぱりかよ! しかし、多発しているなぁ、飛竜に襲われる事件が……。」
「ああ、三日の討伐の際、三匹の飛竜を狩ったが、再び現れるようになったようだ……ん、牧童のシロウサヒコじゃないか! ふう、無事で良かった……。」
「むう、俺はシロウサヒコじゃなくて……。」
ウクヨミとかいう平安時代の公家の男性のような格好をした兎獣人まで、俺のことをシロウサヒコと呼ぶ。
「コイツはシロウサヒコじゃないみたいだぞ。」
「なんだと⁉」
「コイツはヤマダサブロウだ。」
「おい、勝手に命名すんなぁー!」
「じゃあ、サトウヒロシは?」
「どっちも嫌に決まっているだろう!」
「うむ、そうかヤマダサブロウか……で、旅人なのかな? しかし、悪い時に訪れたな。」
大フレイヤが、俺にヤマダサブロウと命名する……おい、勝手に命名するな!
「むう、そんなことより、件の飛竜についての詳細を知りたいな。」
さてと、なんだかんだと、今後のためにも飛竜についての詳細を聞いておくか……。




