外伝EP01 大空の兎 その4
この世界の名前は猛獣界というらしい。
で、俺はそんな猛獣界でもっとも広大な大陸であるケモニア大陸のど真ん中にある区域の兎天原という区域にある村のひとつエフェポスへとやって来る。
「わ、二足歩行の兎がいっぱい! それに他にも二足歩行の猫や犬……た、狸や狐もいるぞ!」
エフェポスの村は、高床式の木造家屋が建ち並ぶ背の高い鬱蒼とした大木が密生した樹海の中にある村のようだ。
それはともかく、この村の住人は二足歩行の獣……獣人だ!
むう、そんな二足歩行の獣こと獣人達が、俺の目の前にたくさんいる驚愕の光景を見ていると、ここが本当に異世界だということを嫌でも実感させられる。
「ハハハ、何を言ってんだ、お前? そういうお前も兎じゃねぇかよ!」
「な、なんだと! 俺が兎だと!」
「ああ、それはともかく、ここは獣人族の村よ。まあ、人間もそこそこ住んではいるんだけどね。」
「へ、へえ、そうなんだ……わ、あれはライオンじゃないか!」
「アイツはメイヴ。この村の村長のフレイが雇った用心棒のような存在さ。」
「なあ、ところで名前をまだ聞いてなかったわね。」
「ううう、そのことだが、何故、思い出せなくて……。」
「そうかぁ……じゃあ、ウミコ様のとこへ行こう。きっと、お前の記憶と、今の姿がどんなモノかわかるはずだぜ。」
く、家族や結婚を近いあった恋人がいたことだけは、朧気に思い出してきたが、何故か名前だけは思い出せない……。
だけど、ウミコ様とやらに逢えば、思い出せるかもしれないな!
「ウミコ様はエフェポスの村の古老のおひとりだ。ああ、そんなウミコ様は、お前と同じ兎獣人だ。」
「兎獣人!? 何を言っているんだ……。」
俺が兎獣人だと!? 大フレイヤが妙なことを言い出す。
このエフェポス村の村人は、兎獣人が大半を占めているようだけど、俺はその仲間のじゃない……人間のつもりだ!
「まったく、いつになったら気づくんだぁ? このニブチンは……。」
「一向に気づく気配がないしねぇ……。」
「仕方がない。ほら、俺の手鏡を貸してやる。覗いてみろよ。」
「む、むう……。」
ポヨン――と、大フレイヤは、ご自慢の巨乳の谷間の右手を突っ込むと、赤い折り畳み式の手鏡を取り出す。
そんな赤い折り畳み式の手鏡の鏡面を覗き込めってか? いいだろう、覗いてやる。
「ん、飛行機乗りに格好をした白い兎が映っているな……って、おい! ひょっとして俺?」
「何を言っているんだぁ? 当たり前じゃん!」
「アハハ、やっと気づいたみたいね。兎ちゃんは――。」
「うおおお、嘘だーっ! 嘘だって言ってくれぇ!」
う、うぐぐ、信じられるか!
大フレイヤから手渡された赤い折り畳み式の手鏡の鏡面に映り込んでいる飛行機乗りの格好をした白い兎が、今の俺だなんてことを――。




