EP12 俺 ライバル宣言されて困ります。その63
「おい、スキュラ! 約束のモノを持ってきたぞ! 早く姿を見せろ!」
と、俺はオレンジジュースの湖のど真ん中にある小島へと到着すると、ダッシュでメロンソーダーの泉へと向かう。
で、メロンソーダーの泉というワケで濃い緑色の炭酸水の水面に問いかける。
底に住んでいる魔女――スキュラを呼び出すために――。
「あ、あれ、反応がまったくない……。」
「変ですね。まさか留守とか?」
「留守なんかじゃないわ。スキュラなら、ここに〝いる〟わよ。」
「え、どういうこと?」
「ハハハ、まだ気づかないの? 私がスキュラよ。」
「う、どういうことだよ、キルケー……う、まさか!」
「やっと気づいたわね。そうよ、私とスキュラは同一人物ってワケ! ああ、蜂蜜の木はもらっておくわよ。」
むう、メロンソーダーの泉の水面に何度、問いかけてもスキュラが反応するワケがないよなぁ……。
何せ、俺達と一緒にオレンジジュースの湖のど真ん中にある小島にやって来たキルケーって奴と、小島のメロンソーダーの泉に住んでいるスキュラは、実は同一の存在だったワケだし――。
「悪いね。故あって、キルケーとスキュラという一人二役を演じさせてもらっている。」
ヒョイッと命を持った飴の塊――魔法生物でもある乗騎こと巨大な黒い馬の背から飛び降りると同時に、キルケーの下半身がニュルニュルした八本足を蠢かす蛸に変化する。
「実は言うと、アンタ達をここへ招いた真の理由があるんだ。」
「むう、どうせ私達を反天空姫同盟の仲間に引き入れるつもりなんでしょう?」
「ビンゴ! 意外だわ、すぐにわかってしまうなんて……。」
「私もすぐにわかりました。」
「わかりやすい理由ですしねぇ……。」
「ハハハ、俺ですよー!」
「うむ、わらわもすぐにわかったぞ。」
「わかりやすくて溜息が出るぜ。」
「ああ、まったくだガウ!」
「え、そうなの? むう……。」
ふえええ、そんな理由だったのかよ!
フィンネア達はあっさりとわかったようだけど、俺は言われるまで気づかなかったぜ……。
「さて、一旦、アンタ達を元の世界へ戻してあげるわ。」
「え、マジで!」
「うん、でも、後日、アンタ達のアジトへ行くわ。」
「え、えええーっ! おい、アジトを知っているのかよ!」
下半身がニュルニュルした八本足の蛸のモノに変化したキルケーは、蜂蜜の木の枝をジュルジュルと舐めずりまわしている。
蜂蜜の木の枝からは、絶えず甘い黄金の樹液が――蜂蜜が滲み出しているしね。
と、その前に、後日、俺達のアジトに行くって言っている。
ちょ、アジトはオリン山から遠く離れたエフェポスの村の郊外になるんだぞ!
うう、デマカセなのか、それとも真実なのか……。
「じゃあ、元の世界へ戻すよ。じゃ、バイバイ~☆」
「わ、ちょっと待て! なんでアジトのことを……ぐ、ぐわ、光が、光が広がっていく!」
お、おい、最後まで俺の質問に――が、赤々と燃え盛る火炎のような真っ赤な光が、キルケーを中心に拡散する!
で、何故、アジトの場所を知っているのか聞くことができないまま俺は……俺達は赤い光の奔流に飲み込まれてしまうのだった。




