EP12 俺 ライバル宣言されて困ります。その52
山って場所は、上へ行くほど気温が下がり、オマケに空気も薄くなるワケだ。
それはすべてが甘い餡子でできているおはぎの山であっても言えることだろう。
しかし、ここはキルケーって奴の心象が具現化した世界――固有結界であるにも関わらず、本物の山で起きる現象を完全再現していることには、素直に驚いている。
――とはいえ、おはぎの山は、俺が俺が本来いるべき世界の故郷にある富士山のような標高三千メートルを超えるような高山ではない。
それなのに感じる強烈な寒気と空気の薄さは、俺の錯覚じゃないのよなぁ……。
「お姉様、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。とりあえず、休憩するよ。ついでに、腹ごしらえを……。」
むう、ゾンビであるフィンネア、メリッサ、ミネル、アシュトンは寒さや空気の薄さを気にすることなく、おはぎの山の頂上まで行くことができるだろうなぁ。
ああ、時々、大量の水を飲まないと干からびたミイラになってしまうピルケも当然、気にすることなくおはぎの山の頂上を目指せるはずだ。
「ふう、私も少し休憩したいなぁ、モグモグ……。」
「この餡子、美味いガウ! お、今、気づいたけど、このおはぎの山は粒餡の塊みたいだガウ。」
「どうでもいいけど、あっちゃんはいつまで気絶しているんだ?」
「さ、さあねぇ……お、でかい木のようなシルエットが見えてきたぞ!」
「あ、ああ、薄っすらとだがな。」
ふ、ふう、なんとか頂上に生えているという蜂蜜の木とやらのシルエットが見えてきたぞ!
「お姉様、ここからでも見えるってことは樹齢数百年は確実な大木ですねよ!」
「多分そうだろうなぁ。ん、ところでセクメト君、この先には君以外に誰かいたりするのかな、かな?」
「私はセクメトじゃない、アタランテだって何度言えば……フン、いるワケがないだろう? このおはぎの山はキルケーからもらった私に領地みたいなモノだからな!」
「ん……って、ことはキルケーの使い魔だったりするの?」
「使い魔じゃない。同士って言ってくれ!」
「じゃあ、反天空姫同盟の一員だったりする?」
「まあね!」
ふーん、アタランテって子ライオンは、反天空姫同盟の一員のようだ――が、この甘いお菓子だらけの固有結界の中にいる以上、反天空姫同盟の同士だって言ったところで、主であるキルケーの使い魔に他ならないと思うんだが……。
「う、お前達は蜂蜜の木に何をする気なんだ?」
「ああ、枝を折るだけだよ。スキュラが欲しがっているんだ。それにソイツを渡せば、俺達をこの甘いお菓子で構成された固有結界の外に出してくれるってスキュラが言っていたんだ。」
「む、むう、そうなんだ……だけど、そう簡単にはいかないと思う。何せ、蜂蜜の木は木霊だからな。」




