EP3 俺、魔法の薬を作成します。
表紙にダンディーなヒゲのおじさんの顔がついている不気味な喋る本ことブックスには、周囲の風景と自分の姿を一体化させることで相対するモノの視界から〝姿を消す〟ことができる穏行の術という魔術が記されている。
とはいえ、穏行の術は素人でも簡単に覚えられるような初級魔術ではないので、今の段階では初心者に毛の生えた程度の俺には行使できるワケがない。
だけど、一時的に姿を消すことができる魔法の薬の作成方法なら、数百ページにも及ぶ図鑑であるブックスの最初の方に記されていたワケだ。
ま、そんなワケで俺は兄貴とヤスとともに、一時的に姿を消すことができる薬の作成に必要な存在をエフェポスの村で購入してきたので作成してみるのだった……上手くできているかはわからんけどね。
「乾燥させた浮遊樹の根っこと雷鳴草の花をすりこぎ棒とすり鉢で粉末状にしたモノに対し、ブラッディガーベラのエキスを五滴……こんな感じで作成完了?」
「うむ、まあ、上出来だな。さあ、早速、飲んでみるといい。」
「う、これを飲むのかよ……」
「イイ匂いではあるけど、これはその香りがネックのなっているね。」
「粉薬なのがダメっす! 薬液ならなんとかイケそうっすけど……。」
飲むと一時的に姿を消すことができる魔法の薬の名前は、名づけてインビジブルパウダー!
名前の響きがカッコイイだろう?
まあ、そこまでは良かったんだが、そんなインビジブルパウダーの材料のひとつであるブラッディガーベラのまるでトイレの芳香剤のような香りがネックとなって飲みづらい代物と化してしまったのが痛い!
「よし、ここは勇気を出して……うおりゃあああっ!」
「「あ、兄貴ィィィ!」」
流石は兄貴!
とばかりに兄貴は、インビジブルパウダーを口の中に放り込むと、ガッと勢いよく近くあった瓶を口にくわえると、その中に入っていた赤ワインで喉の奥に流し込む!
「フ、フグ、フゴ……ゴフゲフガフッ! の、飲んだぜ!」
「うむ、よく飲んだな。さて、ソイツは飲んでからすぐに効果が出てくるはずだ。」
「即効性って感じか? わ、兄貴の下半身が半透明に!」
「な、なんだと!? うわああああ、俺の身体がっ!」
「あ、兄貴の身体が消えてなくなったっす!」
「おい、俺なら、ここだー!」
「ひゃああ! 兄貴、今、俺の胸を触っただろう!」
「ヘッヘッヘ、気づかれたか! しかし、イイねぇ、姿が見えないっつうのは☆」
兄貴の姿が、スゥ~と下半身から消失する。
インビジビルパウダーの調合は上手くいったようだ!
だけど、姿が見えないことをイイことに兄貴は、俺の胸を触りまくる……ムムムッ!
「兄貴の姿が、また見えるようになってきたっすね。」
「うん、ホントに一時的なモノだな……って、このスケベアニマル!」
「ギャボッ!」
スゥと兄貴の姿が再び見えるようになる。
姿が見えない状態は、大体三十秒くらいかなぁ?
それはともかく、スケベアニマルにはお仕置きだ――と、俺は兄貴の頭の天辺に拳骨を振り下ろすのだった。




