EP2 俺、歌姫と出逢う。その5
「よし、アジトに無事帰還!」
「一時はどうなるかと思ったっすね、兄貴……。」
「さてと、アジトへ戻って来たことだし、モルガン・ルフィエルについて教えてくれよ、兄貴!」
なんだかんだと買い物を済ませた俺達は、エフェポスの村を離れアジトへと戻る。
んで、早速とばかりに伝説の魔女モルガン・ルフィエルについて兄貴に訊いてみるのだった。
「よっしゃ、話してやるぜ! さっきも言ったがモルガン・ルフィエルは兎天原に伝わる伝説の魔女の名前だ。」
「あ、俺も語りたいっす! 小さい頃、親の言うことを聞かない悪いコや夜遅くまで起きているコは、モルガン・ルフィエルがやって来て、どこかへ連れて行かれるぞ――と、両親によく脅かされたっす!」
「とまあ、そんな恐怖心を植えつけられてモノが兎天原にはいっぱいいてねぇ! それに兎天原に伝わる身の毛が弥立つ怪談話には、必ずと言っていいほど、登場するのが件のモルガン・ルフィエルなんだ。」
へえ、モルガン・ルフィエルは親も言うことを聞かない子供なんかを戒める存在でもあるっぽいなぁ。
それはともかく、彼女の名前を無闇に口にしちゃいけない理由はなんだろう……?
そこら辺を兄貴に訊いてみるか。
「なあ、兄貴。何故、モルガン・ルフィエルの名前を無闇に口にしちゃいけないんだ?」
「そりゃねぇ、クーフリド王みたいになりたくないからさ。」
「クーフリド王?」
「ああ、今から七百年くらい前のマーテル王国の王様っすよ。その人はモルガン・ルフィエルの呪いのせいで非業の最期を遂げた英雄でもあるっす。」
「ヤスゥゥ! 俺が説明しようと思ったのにィ! まあ、とにかく、クーフリド王の逸話も原因となって、兎天原では無闇に、あの魔女の名前を無闇に口にしないようにしているモノが多いってワケさ。特にエフェポスの村に住んでいる老師ウサエルのような古老は、物凄ぇ気にしているからな。年寄りの前で、あの魔女の名前を下手に口にすると説教三昧という目に遭うかもしれないぜ。」
「ふーん、そうなんだ。」
「ま、あえて使うなら悪いコを戒めるためにって感じだな」
「ああ、さっきヤスが言ってた話ね。」
クーフリド王の逸話ねぇ、なんだかんだと気になるなぁ。
お、アジトにもけっこうな数の蔵書があるし、ちと歴史のお勉強でもしてみるかー。
「そういや、ネメシス騎士団のミネルって女の部下が、俺のことをモルガン・ルフィエルでは――と、疑いをかけてきたけど、俺の容姿って似てたりするの?」
そういえば、エフェポス野村で出逢ったネメシス騎士団のミネルって女の部下のメイザースだっけ?
ソイツが俺のことをモルガン・ルフィエルでは!?
なんて疑ってきたけど、俺の容姿ってそんな似てるのか、ひょっとして……。
「そこら辺はわからんなぁ。だが、マーテル王国のどこかに、モルガン・ルフィエルを想像して描いたとされる天を舞う厄災の魔女という有名な絵画があるそうだ。」
「むう、じゃあ、その絵画に描かれた魔女と俺の容姿がそっくりなワケだな。なるほど、あのメイザース男は、そんな絵画の話を人伝に聞いたワケだな。」
うーん、なんだか迷惑な話だなぁ。
そんな絵画に描かれた魔女の姿と、俺の姿を照らし合わせるとか……。
「さてと、その話はもういいだろう? それより、エフェポスの村で仕入れた材料を使って〝あの薬〟を作成しないか?」
「あ、ああ、飲んだら一時的に姿を消すことができる薬だっけ?」




