EP11 俺、死神と出遭う。その16
「わ、月がふたつある!」
「キョウ様、知らなかったんですか!? ひょっとしてド忘れしてます?」
「そ、そんなワケないだろう! 今のは冗談だ、冗談!」
「ウフフ、そういうことにしておきましょう。」
「む、むう……。」
「でも、忘れる人も多いですよ。〝赤い月〟の方は、ごく稀にしか見えませんしね。」
この世界にも当然、月が存在しているようだ。
太陽が存在しているし、月が存在していても当然かな?
さて、月という惑星は、例え異世界であっても万国共通なのかもしれないけど、唯一、俺が本来いるべき世界と違うところは、この世界の月は〝もうひとつ〟存在していることだ。
で、そんなもうひとつの月だけど、月に一回か二回――多くても三回しか観測することができない真っ赤な月である。
うーむ、俺はそれを今、見ている……運勢最高! いや、逆に運勢最悪の兆しだったりしないか何気に心配になってきたぞ……。
「兄貴の眼みたいだな。」
「ハニエルの? ハハハ、そういやアイツの眼は真っ赤だったな!」
「真っ赤な眼といえば、私の瞳も真っ赤だけど気づいているかな?」
「グリーネ、それは知らなかった……。」
「そんなことより、アレをどうします?」
「校門ノ外ニイル夜魔屍鬼ハ、今ノトコロ三体ダ。ソノウチモット増エルカラ外ニ出ルナラ今ノウチダ!」
「まだ三体なら戦うならやっちゃいましょうよ、キョウ様! 俺はさっきイイモノを手に入れましたよ、クックック~☆」
「た、戦って退けるのもありだけど、この凄い悪臭は耐え難い! だから不用意に近寄れないぞ、夜魔屍鬼に……。」
俺と使い魔達――メリッサ、ミネル、アシュトン、ピルケ、フィンネア、それに吸血鬼のグリーネと小人型自動人形ヘイムダルは、思わず吐き気を催すのような腐敗臭を放つ禍々しくおぞましい腐った人間型の化け物こと夜魔屍鬼が集合し始めている光桜学園の閉ざされた校門のところにやって来る。
「さてと、鎮魂歌を唄えるって言ってたわね。奇遇ね、私も唄えるわよ!」
「ほう、じゃあ、どっちが上手いか勝負と洒落込もうぜ!」
そうそう、大フレイヤに対し、何故かは知らないけど、ライバル意識を燃やす小フレイヤも一緒について来る。
むう、鎮魂歌とやらで勝負だ――と、言い出したぞ!
「ん、鎮魂歌!? アイツらを鎮める気?」
「まあな! 自慢じゃないが俺は〝歌〟で怨霊を鎮めたことがあるんだ。」
「な、なんですって!? じゃあ、負けていられないわね!」
「なあ、別に張り合わなくても……。」
「「五月蠅いッッ!!」」
「お、おい、何も怒鳴ることは……ヒッ! わかったよ、俺ももう何も言わないよ!」
一瞬だけど、大フレイヤと小フレイヤの顔が般若の形相に変わる。
俺はそんなふたりの般若の形相に臆し、思わず尻餅をついてしまう、むう……。




