EP2 俺、歌姫と出逢う。その4
「人間、その名前を口にしちゃいかん!」
「ん、老師ウサエル!」
「わ、なんだ、急に静かになった感じだけど……」
その名を口にしちゃいけない!?
モルガン・ルギフィエルの名を口にした女騎士の部下に対し、そう言い放つヨボヨボに年老いた兎獣人が現れる。
んで、兄貴が老師ウサエルと呼ぶ――ん、突然、俺の周りにいる兎獣人や猫獣人、それにフレイヤとフレイまで黙りこくってしまったぞ!?
ああ、俺達の周りに集まっている兎獣人や猫獣人の子供の一部が泣き始めた!
「な、なあ、どうしたんだ、急に?」
「キョウ、お前は何も知らないから教えておくぜ。あの御方の名前を無闇に口にしちゃいけない。詳しいことはアジトで話すが、このエフェポスの村ン中じゃ禁句と覚えておけ!」
「お、おう! てか、なんでだよぉ~?」
「う、うーん、とりあえず、ここで俺が言えるのは、〝兎天原に伝わる伝説の魔女〟ということだけかな。」
伝説の魔女モルガン・ルフィエル――何者かは知らないけど、その名を下手に口にしない方がいいかもしれない。
「おいおい、どうしたんだぁ、ウサ公やニャン公共は?」
「メイザース! アナタは兎天原へ来て間もなかったわね。あのご老公の言う通りよ。あの御方の名前は無闇に口にしちゃいけないのよ。この兎天原では――。」
「ミネル様、マジで知らなかったんです、マジで……チッ!」
女騎士はミネルという名前のようだ。
さて、そんな女騎士ミネルに対し、部下である大男は何度も頭を下を下げる――が、今、舌打ちをしたぞ、コイツ。
忠誠心がイマイチって感じだな。
「さてと、見知らぬ面子もいることだし、ちと訊きたいことが……あああ、いなくなっている!」
「ん、アイツらなら市場の方へ向かったよ。残念だったな、ミネルさん。」
「つーか、ミネル様、チラッと見た程度だけど、あの黒髪の女だけど、亡くなったエリス姫に似てましたね。」
「メイザース、君はアホか! エリス姫は十五歳だ。まあ、私も似てるとは思ったけど、あの女は亡くなったエリス姫より十は年上だぞ。フン、どうせこの村に移住して来た行かず後家だろう。最近、他所からやって来た人間の入植者が増えていると聞くしな。」
「うっわぁ、ひでぇ! そんなミネル様も確か同じ年くらいなのに……。」
「なんだと、この私も行かず後家だと言いたいのか? 私の場合は、単に婚期がちと遅れているだけだ!」
「ま、そういうことにしておきましょう。クククク……。」
「笑うな、貴様!」
ハハハ、俺は逃げ足だけは自信がある。
そんなワケで同じく逃げ出しだけには自信があるっぽい兄貴とヤスと一緒に、俺はエフェポスの村の市場がある方向へと抜け足、差し足、忍び足で逃げるのだった――って、おい! 誰が行かず後家だ! 俺はまだ未婚だっつうの!




