EP11 俺、死神と出遭う。その3
どれくらい昔の話かは俺にはわからないけど、聖ヴァルレーゼという一神教のラーティアナ教の聖人が、兎天原で殉教したようだ。
伝説によると、エフェポスの村の北にある古代の円形劇場で説法を行っていたところ無信教な虎だったか豹の獣人と口論となり殴り殺されたとか――。
で、彼が殴り殺された場所である古代の円形劇場は、皮肉にもいつの頃からかラーティアナ教の信徒達の巡礼の地となっている。
そういえば、そんな古代の円形劇場には、封鎖されていて入ることができない地下空間は存在しているらしい。
もしかして、そこに吸血鬼ハンターや死神の鎌が狙う不死者ヴァルムント・ナイアザーが潜んでいるかもな!
さて、ヴァルムント・ナイアザーが潜んでいるかもしれない――と、その可能性が否めない場所が、兎天原には、もうひとつあるワケだ。
そここそ俺達が今、向かっている聖地アンザスである。
ん、ヴァルムント・ナイアザーはエフェポスの村のどこかに潜んでいる可能性はないのかって!?
まあ、その可能性も否めないけど、エフェポスの村の長老である老師ウサエル、それに村長であるフレイの父親であるニョルズおじさんも村の中には、遺跡と言っても間違いない古い建物はないって言っていたなぁ……。
まあ、古い建物があっても遺跡とは言い難い精々、築数十年程度のモノなら多々あるようだ。
ちなみに、エフェポスの村には空き家がないようだ。
「さ、手作りのサンドイッチだ。聖地アンザスに到着したら食べようぜ。」
「果物やお菓子も持ちましたわ!」
「お姉様、お弁当をつくりましたわ!」
「わらわは大量の水を持ったぞ。」
「お前ら、ピクニックに行くんじゃないんだぞ。わかっているのかなぁ……。」
やれやれ、食べ物や飲み物を持参するのはいいけど、遊びに行くんじゃないんだぞ、まったく!
そ、それはともかく、聖地アンザスの目と鼻の先まで俺達はやって来る。
「ふーん、聖地アンザスへは、この先の一本道を進めばいいワケですね。」
「ん、見ろよ! 鎧を着た兵士っぽい男がいるぜ。」
「あれはマーテル王国から派遣された警備兵ですわ。」
さてと、聖地アンザスへ行くためには、管理しているマーテル王国から派遣された兵士が行く手を遮っている一本道を進まなきゃいけないようだ。
「おい、お前ら! ここへ何の目的でやって来たんだ!」
俺達の行方を遮るかのように立ちふさがるマーテル王国の兵士の数は、とりあえず目の前にいる三人だ。
近くに兵士達の詰所のようなプレハブ小屋があるので、目の前にいる三人以外にもいそうだな。
と、そんな目の前にいる三人のマーテル王国の兵士のひとりが、腰の左側に吊るしている長剣の柄を何かあれば、即、刃を引き抜けるようにとばかりに右手で握った状態のまま俺達のもとに歩み寄って来る。
なんだか警戒されちゃっているなぁ、俺達……。
ったく、何をそんなに……ま、クールに対応してみるかな。
「俺達は、この先にある聖地アンザスへ行こうと思ってやって来たんだ。」
「「「は、はあああ!?」」」
「お、おい、なんだよ、三人そろってデカい声を張りあげやがって!」
むう、なんだよ、コイツらの態度は!
それに加え、まるで何も知らない無知な輩を見るような眼で俺を見やがって……ひょっとして、俺を馬鹿にしてるのか!?
「うーん、その様子だと、ここに何まも知らずにやって来たって感じだな。」
「ああ、無知ってのは怖いねぇ……。」
「つーか、ここは禁足の地だって知らないのかよ、姉さん?」
「え、そうなの?」
「そうだ! ここはお前のような輩が来るべき場所ではないのだ! さっさと立ち去るんだな、この年増!」
「おい、俺はまだ年増って年齢じゃないぞ、この野郎!」
ふええ、年増扱いされたよ!
この世界での俺は、二十代半ばなのに……しかし、なんて言い草だ!
「あれ? おかしいですわね。ここは禁足の地とはいえ、料金を払えば誰でも入れる場所なのに……。」
「グラーニア、それはマジな話なの?」
「はい、私は嘘を言いません。それに入場料金はそんなのしなかった気がします。」
「……ってことは、お前ら!」
「あ~あ、バレちまったか! ここには滅多に人が来ないから嘘が通じるかと思ったのに……。」
「ぐぬぬぬ、だからって、俺を年増扱いしやがって!」
「そうだ、そうだ、お姉様はまだまだババアって年齢じゃありません!」
「フィンネア、それは余計な一言だと思う……。」
「お姉様、落ち込んでません?」
「お、落ち込んでなんかいないよ! まあ、とにかく、入場許可証を買うから、その手続きを!」
さっきから年増とかババアとか……ちとイライラするが、無事に聖地アンザスへ行けるな、これで――。




