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EP10 俺、吸血鬼と遭遇する。その17

「フィンネア、お前から死の匂いがする!」


「え、死臭ですか!? むー、お風呂にはちゃんと入っているんですが……。」


「死臭? 違う違う、死の匂いとは不死者特有のモノでね。」


「そういう意味の……ああ、私はゾンビですから仕方ないですね。」


 フィンネアはゾンビであり、使い魔であり、友達でもある。


 だけど、レズっぽいのは珠の傷なんだよなぁ……。


 アレがなきゃ小柄で可愛いのに……。


「さて、この私を倒すことが真の目的じゃない……だと?」


「まあ、ついでに斃しておくのもいいかな……おっと、冗談、冗談! そんな怖い顔で睨まないでほしいなぁ。化け物とはいえ、女のコには手を出さないのが、私のポリシーだからね。」


「ふーん、そうなのか? だが、ちょっとでも変な真似をしてみろ! 八つ裂きにしてやる!」


「わかった、わかった! 何もしないって!」


「叔父様、私の陰に隠れていないで、ここへやって来た真の目的を語ってください!」


「うむ、じゃあ、話を始める前に……皆は当然、あのエフェポス魔術大会議のことを知っているよね、リリス様?」


「むう、どうして私に訊くんです? まあ、そんなこと当然ですわ、フィンクスさん! ケモニア大陸全土から魔術師や魔女が一堂に集まって魔術の今後について語り合ってというイベントのことでしょう?」


「彼是、五百年は昔の話だな。歴史の本を読んで知ったよ。」


 エフェポス魔術大会議とは、この世界において五百年ほど昔に行われた魔術の今後について語り合うため当時の魔術絡みの有力者が、このエフェポスの村に一堂に集まったとされる歴史的大会議のことである。


 ちなみに、エフェポスの村の名前の由来となった大魔術師エフェポスの呼び掛けによって実現したと歴史の本には記されている。


「ええと、確か大まかな議題となったのは、当時、乱立を極めていた混沌とした魔術界を一新するため、どの魔術を正統派として公認するか……ってことでしたね、グラーニア様?」


「ええ、史書には、そう記録されていますわ、メリッサ。」


「へえ、五百年前までは魔術が乱立したんだ。まるで魔術的戦国時代だな!」


「ん~……否定はできませんね。当時は魔術師を束ねている公的機関が存在しなかったという理由もありますし……。」


「その話は俺も聞いたことがあるぜ。つーか、エフェポス魔術大会議で正統派と認められなかった魔術は異端視され、その挙げ句、断絶したって系統の魔術が、相当な数あったという話も聞いたぜ!」


「フレイヤ、それはマジか!? じゃあ、ブックスに記されていた即席ゾンビ作成方やカード魔術は、その時に断絶した系統の魔術なのかも!?」


「カード魔術はともかく、死霊魔術(ネクロマンシー)は、ギリギリ生き残りましたよ、お姉様。でも、大部分は失われましたけど……。」


 ふーん、当時、乱立していた魔術界は、エフェポス魔術大会議以降、一新されたワケね。


 で、正統派と認められなかった異端の魔術のひとつが、俺が使うカード魔術や同じ穴のムジナであるフィンネアも知らなかった即席ゾンビ作成方のような失われた死霊魔術の系統なのかもしれない。


「さて、問題はエフェポス魔術大会議の時、最後まで〝とある魔術〟の異端視に反対し続けたひとりの男にあるんだ。」


「叔父様、ソイツってヴァルムント・ナイアザーのこと?」


「ああ、ビンゴだ。流石は我が姪だ。すぐにわかってしまうなんて凄いよ!」


 と、姪であるフィンネアを褒め称えながら、フィンクスは前髪をフッとかきあげる。


 やれやら、イチイチ前髪をキザったらしくかきあげなきゃ気が済まないようだな、この色男は――。


 まあ、それともかく、反対者は絶対ひとりはいると思っているだろうと思っていたけど、それがビンゴだとはね。


「なあ、そのヴァルムント・ナイアザーって男が異端視に反対した〝とある魔術〟ってなんだよ?」


「ええと、それは――。」


「恐らくは次元魔術だろう。」


 と、グリーネがフィンクスに代わって返答するのだった。


「次元魔術を知っているのかい、吸血鬼のお嬢さん!」


「無論だ、色男。私はこう見ても七百年は生きている。その次元魔術についても当然、知っている身だ。」


「ところでグリーネって七百と何歳なの?」


「ん、七百と十九歳だ。それが何か?」


「いや、なんでもない。」


「さて、私はヴァルムント・ナイアザーを知っているぞ。何せ、私はソイツと旧知の仲でね。次元魔術を編み出す際、一役買ったのさ。」


「な、なんだってー!」


 ふ、ふむ、グリーネは次元魔術を編み出したというヴァルムント・ナイアザーとは旧知の仲のようだ。


「あ、そうだ、そうだ。ヴァルムント・ナイアザーは、次元魔術が異端のレッテルを貼られたことに憤慨し、自らを不死者化させたって伝説があるんだった!」


「ほう、あの馬鹿者、私の真似事をしたようだな。」


「ま、そんなワケさ。不死者と化したヴァルムント・ナイアザーが、このエフェポスの村に潜んでいるっぽいんだ――五百年の昔から!」


「な、なんだってー!」


「知らなかった……私はそのことを知らずに村長をやっていただなんて!」


「わ、わしもじゃ、フォッフォッフォッ~☆」


「老師ウサエルも知らなかったのかよ!」


「ハハハ、まあ、こうなったらみんなで探そうじゃないか! ヴァルムント・ナイアザーを――。」


 ご、五百年前からエフェポスの村に潜んでいた……だと!?


 うーん、それを知らずに子々孫々、暮らし続けているエフェポスの村の住人達は呑気だなぁ――。


 まあいいや、ヴァルムント・ナイアザーを探してみるか――。


 古代遺跡とかを手当たり次第に――。

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