EP10 俺、吸血鬼と遭遇する。その16
「う、急に薔薇の香水の匂いが!」
「イイ匂いですが、これはちと強烈すぎのような気が……。」
「むう、それはともかき、何かが、その気の陰から出てきたぞ!」
「キザな色男じゃのう。薔薇の花をチラつかせている。」
「あ、フィンクス叔父様!」
フィンクス叔父様!?
とにかく、一輪の薔薇の花をチラつかせた黄金色の長髪を風になびかせた長身痩躯のキザな色男が、フッと前髪をかきあげながら現れるのだった。
「おお、我が愛しきリリス姫! 数年ぶりの再会ですね。私ですよ、アナタの婚約者であるフィンクスです。」
「お、おい、あの男も婚約者だって言っているぞ。一体、何人いるんだよ、婚約者を名乗る野郎は!?」
「え、ええと、最低でも十人は……。」
「む、むう、十人もかよ!」
「は、はい、でも、そのうちの半分が、そこにいるフィンネアさんのご家族の方で……。」
「アハハハ、我が家の男達は、み~んなリリス様……いえいえ、グラーニア様にご執心でしたね☆」
ふえええ、十人も婚約者がいたのかよ、グラーニアは……。
しかも、そんな十人中五人がフィンネアの家族の男共のようだ。
「我が家の男達はグラーニア様をめぐって骨肉の争いを繰り広げちゃってましてね。そんな折りにディルムって男とグラーニア様は駆け落ちをしたんでしたね、そういえば――。」
「はい、ディルムにはホント助かりましたが、彼はフィンソスさんの執拗な追手の聖で離れ離れに……。」
むう、そういえば、フィンネアの兄フィンソスらの追手のせいで駆け落ち相手のディルムという男と離れ離れになってしまったんだったな。
「フフフ、ある意味で好都合だ。リリス姫、この私がアナタの心を癒して差しあげましょう!」
「お、おい、俺はリリス姫じゃないぞ。」
「え、リリス姫じゃない!? おお、よく見ると確かに……胸がちっちゃいけど、無駄に背が高いなぁ。」
「胸のことは関係ないだろう! それに無駄に背が高くて悪かったな!」
「ふむ、本物はそっちか……お、その大きな胸は間違いない!」
「アハハハ、お姉様と私は胸の大きさと背の高さが違うだけで容貌はそっくりですわね。」
「うむー!」
俺とグラーニアの違うは胸の大きさと背の高さである。
容貌は双子の姉妹と言っても間違いないくらいそっくりなんだよなぁ。
まあ、俺の身体は急激に成長してしまった彼女の妹のリリスだけど、ここまでそっくりだとはなぁ……。
「フィンクス様ァァァ~~~! お助けをォォォ~~~!」
さて、四人の吸血鬼ハンターのひとりがフィンクスに助けを懇願する。
いい加減、諦めてグリーネの使い魔になれよ、お前……。
つーか、余計なことを懇願してんじゃねぇ!
仮にも武芸達者な男なんだろう、このコイツは――。
「断るよ、ジャン君。」
「ちょ、断るって……。」
「ふう、忘れたのかい? そこの〝吸血鬼のお嬢さん〟は、我らが倒すべき真の目的じゃないってことを――。」
「え、どういうことです、叔父様?」
え、吸血鬼であるグリーネを倒しにやって来たワケじゃない!?
じゃあ、別の吸血鬼のようなモノがエフェポスの村に潜んでいたりするのかよ!




