EP10 俺、吸血鬼と遭遇する。その15
「フィンクスって誰?」
「私の叔父様です!」
「お、叔父様ぁ!?」
「はい、叔父様です! へえ、叔父様が一緒に来ているんですね!」
む、むう、四人の吸血鬼ハンターのひとりが口にしたフィンクスとは、フィンネアの叔父のことだったのね。
「なあ、もしかして叔父様とやらも吸血鬼ハンターなの?」
「確か、そんな気がしました!」
「むう、じゃあ、エフェポスの村にやって来た吸血鬼ハンターのボスって、まさか!?」
「叔父様の可能性があります、お姉様!」
吸血鬼ハンターのボスのフィンネアの叔父フィンクスかもしれない。
「叔父様はお父様やお兄様と違って武芸に達者な御方です。もし現れたら大変なことになりそうですわ!」
「そ、そうなのか!? むう……。」
そういえば、フィンネアの兄はグラーニアことリリスを執拗に追い回していたフィンソスって男だっけ?
とにかく、面倒くさい輩が近くにいるようだ……。
「フィンクスさんが近くにいるんですか!? うえー……寒気がします!」
「グラーニア、顔色が悪いぞ。」
「と、当然ですわ! あの一家の男達は、例外なくストーキングが大好きな人達ですし……うう、物陰から視線を感じますわ!」
「気のせいですよぅ、ウフフフ……。」
背後を振り返ると、両手を口許に当てながら、ガタガタと震えているグラーニアの姿が見受けられる……むう、顔面蒼白だな。
しかし、フィンネアの家族は嫌な連中がばかりだな。
男達は例外なくストーキングが大好きとか……。
「と、とりあえず、老師ウサエルの家の中に戻り対策を考えておこうぜ。」
「うむ、そんなことより、また腹が減ったかも……ほらほら、聞こえるだろう?」
「え、何が?」
「鈍いなぁ、お前は……腹の虫のあげる悲鳴だ。」
「え、この音ってそうなの?」
「うん! さて、お前のおかげですぐにでも腹の虫を黙らせる〝イイモノ〟を得たし、感謝しなくちゃ……んじゃ、いただきます!」
「ぐ、ぐえええっ! あ、痛くない……痛くないけど、腑に落ちない展開だなぁ……。」
何十年も飲まず食わずの状態が続いたせいかは知らないけど、グリーネはとにかく腹が減っているようだ。
ゴゴゴゴゴッ――という彼女の腹の虫は悲鳴を張りあげているしね。
と、そんな彼女のとって使い魔を得たということは、それと同時に栄養補給――即、吸血できる相手を得たことになるワケだ。
ほら、早速、使い魔となった四人の吸血鬼ハンターのひとりが、ガブリと首筋に噛みつかれて血を吸われてしまっているしねぇ。
「ん、お前の血……美味いな! やっぱり同性の血の方が美味い!」
「え……ってことは、ソイツは女?」
「間違いないですわ。アレはありませんもの~☆」
「わあああん、どこ触っているんですかー!」
シャッと確かめるように抱きつくフィンネアが、どこを触ったのかはさておき、四人の吸血鬼ハンターの中に男装女子が紛れ込んでいたようだ。
「う、やっぱり、嫌な視線を感じます!」
「グリーネ、気のせいだろう、マジで……。」
「気のせいなんかじゃありませんわ! ほ、ほら、あの木を見てください……。」
「あの木……わ、金色の何かが見え隠れしている!」
むう、グリーネが感じた視線とやらは気のせいじゃなかったようだ!
俺達がいる老師ウサエルの家の玄関から数えて、大体、二十歩ほど進んだ辺りには樹齢数百年の大木が、ドーンと天に向かってそびえ立っているんだが、そこ陰から金色の物体――風になびく金髪が見え隠れしているしね。




