EP0 俺蘇る。
人の人生なんて、あっと言う間に終わってしまうものだ。
例えば、何かしらの病気のせいで人生に終止符を打つ者、家の玄関の外に出た途端、自動車に轢かれてしまう運の悪い者、そして突然、通り魔に刺されてしまい最悪なカタチで人生の終止符を打ってしまう者――などなど、人生の終わり方は、人それぞれである。
ああ、俺――和泉京次郎の場合は、どっちかといえばマヌケな最後だったかもしれないな。
ははは、何せ新聞配達の最中、階段から足を滑らせて後頭部を強打し、そのままポックリと……。
「うお、真っ暗闇! あの世ってヤツか……あ、あれ?」
えっ……俺は生きてる?
でも、真っ暗闇で何も見えないし、おまけに狭苦しい場所に立った状態でいるようだ。
ついでにチャダンだったかサンダルウッドだったかな?
俺が立った状態でいる狭苦しい場所が、どこなのかは知らないけど、そんな名前のお香のイイ匂いが漂っている……まったく、ここはどこなんだ!
「しかし、可愛そうだなぁ。まだ十五歳だっけ?」
「ま、病気っすからね。仕方ないがないっすよ。」
ん、そんな声が聞こえてくる。
よし、聞き耳を立ててみるかな。
俺が現在、置かれている状況を知るために――。
「どうでもいいが、王家の墓っつうところは宝の山だな!」
「う、うん、そうっすね、兄貴……。」
「なんだぁ、そのやる気のねぇ返事は?」
「や、やる気もくそもないですよ、兄貴! ボク達は墓荒らしという罰当たりな行為をしているワケですし……。」
王家の墓? それに罰当たりな墓荒らし?
と、そんな交錯するふたつの声に俺は困惑する。
「しかし、こうも簡単に、ここに入れるとはなぁ!」
「誰も穴を掘って入ろうなんて考えなかったんすかね、兄貴?」
「うむ、だとしたら人間の泥棒って奴は、意外と馬鹿なんじゃねぇのってマジで思うわ! さて、エリス姫の棺を開けるぞ!」
「え、マジっすか、兄貴!」
「うむ、もっとも高く売れそうなモノは、棺の中に一緒に入れるもんだろう?」
「なるほど! 兄貴って頭イイっすね! じゃあ、早速……ふんぬー!」
エリス姫って誰よ? 誰なんだよ……わああ、俺が〝今いる〟場所がガタガタと激しく動き出す!
ちょ、まさか、俺が今いる場所って――。
「わ、まぶしい! ついでに熱いっ………え、兎? た、松明を持った兎だと!?」
「う、なんだ、コイツ!? なんで棺の中に生きた人間がいるんだよ!」
「あ、兄貴! ソイツはエ、エリス姫っす! こ、この場合、考えられるのは、ただひとつ……吸血鬼化して甦ったってヤツっす!」
「な、なんだってー!?」
「おいおい、勝手な決めつけんな!」
ふ、服を着た二足歩行の兎だと!?
それに煌々と赤く燃え盛る松明を持っており、オマケに喋ったぞ!
「むう、お前達は兎獣人? ま、まあ、とにかく、ここから出してくれたことには感謝しなくちゃな。」
兎が二足歩行で歩き、オマケに喋るなんてありえないけど、とりあえずコイツらには感謝しなくちゃいけないと思ったんので、俺はペコリと頭を下げる。
「あ、そんなことより、ここはどこ? 王家の墓とか言ってたけどさ?」
「お、おう、そうさ、ここは王家の墓だよ! つーか、アンタ吸血鬼だろう!」
「はあ、吸血鬼? なんのことだかさっぱりだぜ?」
まったく、俺が吸血鬼だって? 妙な疑いをかけられちまったなぁ……。
「その問いに関して、この私が代わりに説明しよう」
と、そんな渋いオッサンのような声が聞こえてくる。
二足歩行でオマケに喋る兎の他に、誰かここにいるのか!?