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どうすんだよ

小柄になった(・・・・・・)女の子が人間の域を超えた跳躍力で飛び。少女が数枚のカードを宙に浮かせる。


女の子は空間内の頂上付近まで到達すると、そのまま重力と空間を蹴るように勢いよく少女に向かっていった。


拳を前にだし突撃する女の子の行動は一見無謀な自爆のようにみられるが、それを相手にする方は弾丸以上の圧力を掛けられている。


その圧力に対して少女は避ける行動には移らない。空間を蹴れる女の子が直前で方向を変えると読んでの判断。それが正しいかは幸には分からない。


カードと拳がぶつかり合い、


ドン! と音とともに暴風が巻き起こる。


少女を守り塞ぎ切ったカードは、女の子が地面へと着地すると瞬時に取り囲む。そしてカードは壁を作るだけで何をするわけでもなく停止した。


「戦う覚悟が足りない」


「あなたと戦う必要はありません」


繰り返される会話。


そんな少女から放たれた言葉に女の子は苦々しく表情を歪めた。


「すぐに終わらせてやる!」


女の子は模様が浮かんだ腕でカードを薙ぎ払い、尚も突撃を続けようとする。

だが、すぐに払われたカードが高速で女の子を取り囲んだ。そして強制的に停止させる。


動けなくなった女の子は拳をさらに強く握りしめた。


「うぉおおおおおおおおおおおっ!」


猛る雄叫びを吠えると女の子の足元を中心に砂利が逃げ出すようにあたりに投げ出され、木々が突風に煽られ木の葉をこすり合わせた。


それに合わせてカードも再びバラバラに解体させられる。


女の子が荒々しく息を吐き、その体に異変が起きていた。


「(……小柄になった?)」


幸の思考が勝手にそう選んだ言葉の違和感に、ようやく理解が追い付こうとしていた。


女の子の服のサイズが合っていなかったのも、そして女の子が攻撃をするたび起きていた変化も疑いようのない事実。それは少女の身長が伸びたことにもつながっている。


女の子が拳を振るうたびにさっきよりも縮んでいた。


「(失っている……)」


片鱗に辿り着こうする思考は女の子が少女に突っ込んでいたことで中断される。


女の子は声を張り上げながら進む道の砂利を削り、それに合わせてカードが取り囲もうとする。しかし、今度はカードが力負けしていた。


カードが弾き飛ばされたのを目前に少女は焦ったように両手を広げて前に出す。数枚のカードがぎりぎり滑り込むように壁を作り少女を守る壁を作り、カードと女の子の拳が合わさった。


一瞬の静寂が起きる。


そして――次の瞬間、


ドガッッッッッッッッッッッッ!


地響きにも似たけたたましい怒号が閉じ込められた空間に鳴り響いた。


空間に入る神社の一角が怒号の振動によって次々とひび割れていき、直接拳に触れたカードは勢いまで殺せず燃え尽きた。


少女の体が薙ぎ飛ばされる。


投げ飛ばされてくる少女に咄嗟に幸の腕がのばされる。


思考よりも早く動いた幸の腕は少女を受けとめると、そのまま少女を守るように体を使って覆い隠した。


遅れてくる風圧に幸の体が強張り、少女を強く抱きしめる。


そんな中で覆い隠された少女は幸の胸の中でもぞっと動いた。


その意味を理解している暇もないまま、予期される風圧が二人に襲いかかってきた。幸の足が地面を滑りながら後退していき、あるはずのない空間の壁が背中に当たる。


次に何が起こるのか確認するため、風が吹き続ける途中で細目に開けられた幸の視界には、神社の敷地がその景観をなくしていくのが見えていた。神を祀る建物も、地面に敷かれたタイルも砂利も、緑が生い茂っていた木々もすべてがその衝撃で崩れていく。


「(くっ)」


その衝撃的な光景に不安や恐怖よりも幸の感情は切なさを捉えていた。それは思い出が失われていくような感覚に近い。


暫くして吹き荒れていた風が治まると、女の子が忽然と姿を消している。小さな体が消滅してしまったのか、衝撃で飛ばされたのか判断はできない。


そのまま力が抜けていくように見えない空間の壁に背中を擦りながら、幸は腰を落とした。


辺りの惨状は酷いものだ。


それに比べて幸の姿は風圧で崩れた髪型以外どこにも異常はない。


幸は少女を抱き囲み守れていた部分はなかった。それなのに無事でいることが不自然で、それに気づいた幸は視線を落とすと、地面で燃え尽きていくカードがあった。


それで少女が抱きかかえられながらも動いた理由が分かる。


少女は幸を守るためにカードを動かしたのだ。


幸は自分の胸の中にいる少女へと視線を向けようとした。それに伴い辺りを囲っていた空間が収縮していく。その変化に向けようとした視線を前に戻すとさっきまで全壊していた景観は元の姿を取り戻していた。


「…………はぁああ」


天を仰ぎながら呼吸をし忘れていたように深い安堵を吐き出す息が漏れる。


「……おい」


ようやく急激な展開の終劇に少女に話しかけた。


ところが返事はない。


慌てて腕を広げて少女の安否を確認すると、寝息にも似た息遣いで少女は気を失っていた。あの状況で、これだけで済んだことを考えれば現実離れした状況は続いているようだ。


そして、余計な問題を残されてしまっていた。


「……どうすんだよ」


その場でもう一度、空を見上げれば皮肉にも天気の良い星空が広がっていた。



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