繋がりました
「これであなたと繋がりました」
瞬間的な出来事に動転するなという方が無理だ。
それでも、幸は少女の声を追う。
すると少女に変化があった。
幸はその変化を錯覚だと思い、立ち位置を確認して階段から片足を上げて平地に立ってみた。
「………………?」
それでもその錯覚だと思い込んだ違和感がなくならない。
どう考えても、少女の身長が伸びていた。
「これが万全な状態です」
少女の言葉の意味など考える術もなく、幸は起きている事実に言葉を失っていた。
そもそも少女の身長以前にも、さっきまで幸が腰を下ろしていた位置から階段までは数十メートルある距離をどうやって追い越したのか。仮に少女がこっそり後ろを着いてきたとしても、幸の視界を掻い潜り前に立つなど不可能なのだ。
何一つ幸の整理が整うのを待たず、怒涛の急展開は終わりを告げてはくれない。
「――っ、そんな、もう見つかるなんて」
少女が神社の境内を見渡し何かを探ると、そこにさっきまでの少女よりも小さな女の子が現れていた。
「まさか!?」
少女が何かに驚き声を上げる。
そんな少女の反応とは裏腹に幸は冷静になることだけに努めた。深呼吸をして辺りを見回す。中学生くらいの女の子がこんな時間にうろついている事以外不思議な様子はない。
――と一瞬の違和感に幸は気が付いた。
女の子の服装だ。
片腕が破れたデザインのTシャツは、この際普通なロックテイストの服だと認めることができる。しかし、なぜあんなにサイズが合っていない服を着ているのか理解ができなかった。
ほぼ確実に下の衣服も履いているはずなのだが、腰まで伸びるTシャツはバランス悪く下半身の衣服を隠してしまっている。それがとてつもなく危うく感じられてしまう。
そんな様子を気にも掛けず相対する二人の少女は会話を始めていた。
「あなた……人間と契約してないのですか?」
「今すぐ終わらせれば問題ない」
子供のくせに偉そうな口調で女の子が言うと露出する片腕に奇怪な模様が浮かび上がる。
「退かないのですね」
「退くぐらいなら探したりはしないだろ?」
「そうですか……。ですが、私は誰かを犠牲にしたくありません」
「覚悟が足りないだけだ」
「あなたが思うような覚悟は必要ありません」
強く自分の意思を表明し終わるといつの間にか少女の手に数枚のカードが現れていた。
「『マトリーチェ』」
そう少女が唱えた瞬間半透明な壁が少女を中心に広がっていく。色で言うなら青にも似た少し濁った雰囲気の壁はドーム状に作られる。
幸の目には高台から見えていた街並みも、神社の周りを囲うように植えられていた木々も、その各々が持つ色彩を一色に変えて見えていた。
おそらく《掌中》にいる所為でそう見えている。
その空間から出たい一心からなのか、自然と動かされていた幸の手はそこにあるはずのない空間に触れた。
「すみません。説明もなく空間を広げさせてもらいました。ですが、不安に思わないでください。この空間では被害を出すことはありません」
籠の鳥のような気分にさせられる直前に背中を見せた少女から声をかけられる。
それに対して幸は何も言わない。少女の後ろ姿は状況が緊迫していることを意味していたからだ。邪魔をするというよりも、幸は今この状況で関わる必要がないと判断した上での言動だった。
そして、二人の少女は動き出す。






